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33 雷鳴

   僅かな振動とともに、雷が光った。近くに落ちたのだろうか。欲望をむき出しにした男の顔が再び光る。ギラリと光る瞳の中で、同じように欲望をむき出しにした自分の表情が映し出される。雷鳴にまた部屋全体が震動したような気がした。落雷でこの部屋ごと一気に燃えてしまえばいいのに。  目を反らすと徳重の手が広げられ、受け入れるように首と顎を固定される。容赦なく入ってきた舌が思うままに咥内を責める。ぶつかっていたつま先が前へ滑り、膝を割られた。咥内で暴れまわる舌を避けているつもりが絡めている。抵抗するつもりが誘っているように感じて躊躇うと、絡み合い翻弄される。弾き合う音が響いて逃れようと首を振るが、頬を包んだ手はびくともしない。重なった胸が徳重の鼓動を伝えて上下する。熱くなった。チリっと身体の奥で何かに火がつく。衣擦れの音が恥ずかしくなり肩を引くと生まれた隙間に徳重の大きな掌が入りこみ、胸を鷲掴みにして動く。腰を引き寄せられると、間に挟んだ徳重の足にバランスを崩してつま先立ちになる。抵抗するつもりだった。病室で口接けを赦したのも引き寄せたのもすべて、熱のせいだ。本心ではない……はずだ。 「……っう…」  息遣いも殺すように飲みこむ。零れた唾液を辿るように口の端から、顎へ、喉へと徳重の舌が移動する。すでに揉まれて位置を誇張している乳首に、その熱く柔らかいもので触れられるのかと思うだけで、膝が震えた。  ジュっと音を立てながら、シャツの上から乳首を吸われた。片方の胸は指先で痛いほどに捏ねられて唇を噛むと、わかっていたかのように人差し指が伸びて、唇にあてがわれる。 「なんで、我慢する必要があるの?」  囁くような低い声に、頬が熱くなるのを感じた。治りかけた左脚が銃創を中心にドクドクと脈打つ。徳重の指が唇を弾き、ネクタイに指を引っ掛ける。首筋に触れられると、どうしてもあの時の恐怖が横切る。 「…ぅ……」  だが、徳重はネクタイを緩めるとむしり取るようにそれを外した。僅かな悲鳴に気づいたかのように、顔を上げて目を覗き込んでくる。何も考えないように、見つめ返すと目を細めて頬に口接けてくる。柔らかく、優しく。けれど、ネクタイを外した方の手はシャツの合わせ目に指を置き、一気にひっぱってボタンを外した。弾けたボタンが床に散らばる音に身をすぼめた。言われれば服ぐらい大人しく脱ぐのに、徳重は獣じみた行為を見せつけるように、両手でアンダーシャツを掴むとティッシュでも裂くように、一気に引きちぎった。今度があるなら防刃シャツでも着ておきたい。こちらの反応を楽しみにしているのがわかるから、余計なにも感じてないふりをしたつもりだが、今日のところはあまり余裕がない。  重心を失って膝が落ちそうになると、徳重が腰を支えるように腕を回し、ジッパーを下ろした。 「……待て」  いつの間にか外されていたベルトとともに、スラックスが膝まで落ちると、下着の上から徳重が中心に食いついた。 「あ……っ……」  すでに反応し始めていたそこはちょっとの刺激で崩壊しそうになる。股の間に掌を広げてゆっくりと責め上げられ、Yシャツを裂いたかぎ状の人差し指が、下着を下ろす。  徳重の額を叩くが、なんの抵抗にもなっていない。 「はっん、あ……ぅ…ん、……ん」  先端を責めていた舌先がなぞるように中心を動き、一気に口に含まれた。ねっとりとした熱に含まれ、精巣を素手で刺激されるように包まれた陰嚢も、押さえる力を持たずに爆発してしまった。  ガクガクと震える膝では支えきれず、滑りそうになると、力強い腕で支えられる。傷口を隠す包帯に触れ、 「熱いね」と囁くような声が聞こえた。  水分をたっぷりと含んだ舌先が、臍を侵略し、ゆっくりと上ってくる。熱く大きな手が膝や傷口を上り尻に触れる。形を確認するように手を広げて撫でまわされると、背中がゾクゾクと波打った。舌先が感じるところを探すように、ゆらゆらと登り、唾液を吸ってシャツが張り付いている乳首が尖る。  尻を揉まれて立っていられなくなり、徳重の肩に手を置くが、止めることができない。舌を突き出したままでこちらを見上げシャツの間に舌を入れるが、尖った部分に触れてはくれない。肩にかかるシャツを脱ぎ、震える手で頭を引き寄せて胸元へ誘うが、こちらの反応を楽しむように、ゆっくりと舌をずらしただけだった。  弄ばれている、そう思うとこのままこの男の思い通りにはなりたくなくて、抵抗したくなるが、今日はどうしてだが、うまくいかない。 「……舐め……ろ」  鋭い目が満足そうに細められると、神経がむき出しになった乳首全体を包まれた。熱と柔らかさに包まれて、張り詰めていたものが緩和される。一瞬安堵したものの、根本に歯を立てられて、ビクリと全身にまた緊張感が走り、舌先で先端を扱かれてまた別の感覚が生まれる。こんな前戯でイカされるのはしゃくだった。徳重の頭を抱え込んだ手の甲を噛んで声を殺そうとするが、大きく揺すられてそれもままならなかった。 「……っあ、う……ん…」  尻をさらに強く揉まれて、つま先が浮き上がり倒れそうになる。藻掻くように腕を伸ばして、壁に手をつくと、上体を捻って背中を向けた。その手に徳重の大きな手が重ねられて、崩れ落ちることも許されず、膝を震わせた。 「……ザッシー」  身体を覆うようにピタリと背中に肌が重ねられる。溺れる自分を見たくない。男に好きなようにされて、善がり声など上げたくない。尻を男に突き出す形ではあるが、その方がまだましな気がした。  ぐっと固いものを押し付けられて、身構えた。耳朶にクスっと笑うような吐息が触れた。 「その顔好きだよ」 「……っ」 「もっと好きな顔もあるけど……」  耳元で声がする。固いものを押し付けたまま腰を揺らされた。 「ここ、舐められるの、好きだろ?」  意識させるように徳重が腰を強く突き出した。そのまま挿入される恐怖に、壁に額を擦りつけるように首を振った。上体が離れて、ふくらはぎに膝が触れた。 「や、いやだ!」  強く声を出すと背中にまた体温を感じた。 「どうして? イッたくせに?」 「……今されたら、気絶する」  回避できそうなセリフを投げると、「かわいいな」という呟きが聞こえた。手の届くところに、トロフィーや灰皿や凶器に使えそうな重厚なものがあったら、確実に殴っているのに……、そう思いながら目を瞑って聞かれないように息を吐く。また腰を押さえ付けられて、屹立を押し当てられる。目を瞑れば、その形や大きさまでもわかるほどに。するとガサゴソとポケットでも探る気配があった。危険なものがいろいろ入っているポケット。 「近所のエロ兄さんに『濡れない女のためのローション(試供品)』をもらったんだ」  そいつもいつか殺してやりたい。身構えていると尾てい骨のあたりに、ツっと冷たいものが降り注いだ。 「……っ!」  受け止めるように徳重の指先が会陰から擦り上げ、入口を旋回するように指が動く。ひんやりとしたものが、徳重の指で擦り付けられることによって、人肌に変わっていく。容器から振り絞るような音が聞こえて、それが床に転がると、逃げる腰をがっしりと抑えこまれた。すぐに指が挿入される。首筋に熱いものが触れチロチロと舌が動く。感じる箇所でピクリと身体が跳ねると、チュと音を立てて吸い付いてきた。 「…ん……、ふっ」  震えると同時に指が増やされ、入口を広げるように液体のヌルリとした感覚が広がる。徳重の固い指の感覚がなく、蛇の舌が動いているような、これまでにない刺激を粘膜が感じている。痛みはないものの、中の方まで挿入されている感覚は、揺らされるごとに感じた。トロリと飲みきれなかった液体が、内股を伝い壁に付いた両手を結んだ。液体というより、気泡を多く含んだゼリー状の物体だった。自分たちの発する卑猥な音に雷鳴もかき消されたようだが、獣じみたその行為を時々光に照らされると、羞恥心よりも早く終わらせたいという気持ちの方が先走る。 「……うっ……ん……ん…」  グチュグチュと音を立てて徳重の指が挿出を繰り返す。声を出さないように顎を引いて耐えようとするが、腰を押さえていた徳重の指が胸へと移動する。 「ッン! あ……あっ……」  きゅっと摘ままれただけで、どうしようもなく感じてしまった。指の腹で押さえられ、根元を締められる、それだけで突き出している背中にビリビリと電気が走るようだった。弄られている秘部にきゅっと力が入り、中で徳重の指が曲げられる。 「……あ…はぁ……、うっ……」  息を吐くと徳重の指が深く挿入してきてまた息を詰まらせた。床に液体となったものが、ポタリと音を立てて落ちた。力を抜くと指を引き出され、また根本まで押し込まれる。粘膜に練りこまれた液体が気泡を放つように奥へと押し込まれるほどに、むず痒いような感覚がじわじわと広がってきた。 「…あっあ、もう……」

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