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第8話

 意識を落とした洋から、自分の物を抜き出すと、京介はふぅ、と息を吐いた。  両手の拘束具を外すと、手に付いた傷について眉をひそめる。 「……一体、何から助けろと言うんだ、お前は」  先ほどの、逃れきれない快楽からなら、今こうして意識が落ちている時点で逃げられているだろう。  あれは、アルファの発情剤だ。研究途中だが、人体に残るような副作用は報告されていない。  ただ、量の調整を誤れば先ほどの洋のように発情期のオメガのように感じ入る。  セックスドラッグとしては、効き目がよすぎるのが問題で、国の認可も下りない状況だ。  だが、こんな一時的な状況で、プライドの高い洋が助けて何ていうわけがない。  じゃあ、一体何から?  そんなもの、京介にわかるわけがない。  とりあえず、傷口を消毒し、手当をしてから中に出したものを掻きだして、体を拭いた。  さすがに、意識のない同じような体格のアルファを風呂に入れられるほど鍛えてはいない。  備え付けの浴室でシャワーを浴びてから、ため息を吐いて部屋を出た。すると、心配そうな弟が京介に近寄ってくる。 「兄さん……洋さんは?」 「寝てる……お前はこの部屋に寄らない方が良いだろうな、礼二」 「でも……っ」  少し言いにくそうに、礼二は言葉を詰まらせた。  ちらり、と眠っていると言われたところで心配なのだろう、洋がいる部屋を見てから京介を見る。  ふむ、と少し考えて場所を移動することにした。きっと母たちの前でも話しにくいのだろう。  洋はあまり興味がなかったようだが、この屋敷は京介用の離れであり、母屋とは離れているし使用人も別だ。  この離れの主は京介であり、使用人たちも京介には従順に従う。  ちらりと京介が使用人頭に目を向ければ、わかっていると言わんばかりの態度で頭を下げた。  応接室へと足を踏み入れ、ソファーに座り、お茶が出てきたところで、話を促す。 「……洋さんは、海の物心ついた時から、あぁいう人だったらしいです」  あぁいう人、というと、他人に興味も無さそうで、無気力で、それでいて負けず嫌いでプライドが高い……傲慢なアルファ。   「でも、昔のアルバムを見せてもらえる機会があったんです」  洋の両親は、海の運命である礼二をあまり気に入っていないのでは?と思っていたが、そんな事は無い。  運命の番であり、運命の間に出来る子供は優秀だという噂を聞いて、運命ならば仕方がないと受け入れることにしたというのは聞いたが。 「海が生まれる前の洋さんは、今となっては信じられないような笑顔で笑っていました……」  珍しくて、その写真を一枚もらったのだと礼二は写真を見せてくる。  どこか、面影が残っている。幼い、まだ無邪気と言える洋の姿。 「……なるほどな」  少し、思い出した。幼いころ、一度洋にあって遊んだことがあると。  その当時の記憶を思い起こせば、今とは全く違った人柄だったことは明らかだ。  こうして、写真で見るまで気が付かなかった。名前を知ったとしても、だ。  人が違いすぎて、一致しなかったともいうだろう。同姓同名なのだとも思っていた。  海が生まれる前に何かあったのかもしれない、と礼二は言うが、確実に俺が原因だろうと京介は内心笑う。  京介たちの母親と、洋たちの父親が兄弟であり、それでいて兄弟仲が最悪だというのは、誰もが知っている。  あの日、初めて会って遊んだあの日以来、瀬名家に洋が来ることはなかった。  京介と仲良くしたから、父親が激怒し、そして京介を超えろと洋に言った圧力をかけたのかもしれない。  いや、そうなのだろうと言う確信が京介にはある。  礼二はなおも、虐待されていたのではないか、と心配そうに話すが、されていたんではないのか、ではない。  紛れもなく、個性を殺し、躾と称す虐待がされていたのだろう。 「助けて、か……なるほどな」  助けてほしいのは、いつの洋なのか。  もしかすると、洋の中の時間は止まったままなのかもしれないとも思い始める。 「助けて?」 「いや……こっちの話だ」  とにかく、話は終わりだと礼二を母屋へと送り出す。  辺りはすでに暗くなっており、瀬名の敷地内だとは言え、母屋から少し距離がある。まぁ、襲ってくる命知らずはいないだろうが。  はぁ、と息を吐きだした京介は、部屋に戻ると言い、使用人に後を任せた。  部屋に戻れば、洋はまだ気を失ったまま眠っている。きっと、このまま朝まで起きないだろう。  ベッドに腰をかけ、はぁ、とため息を吐いた。

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