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第12話
あくる朝、洋はいつの間にか落ちていた意識が浮上したのをひっそりと感じた。
必要ないと思っているのか、それともまだ時間ではないのか、赤塚が洋を見に来る気配がない。
京介に閉じ込められ、痩せてしまったからだ。ふと見れば、するりと足を拘束していた鎖が取れる。
ふっ、と小さく笑いが漏れた。これで、自由だと思うのに、俺は要なしなのだとも思うから。
洋はそっとベッドから降りると、部屋の中を少し見回し、着れそうなものを着て、外に出る。
赤塚以外の使用人は、洋に見向きもしない。そもそもいい印象がないのだろう。外に出ることは、容易にできた。
赤塚は赤塚で何故かいない。京介に何か頼まれていたのか、洋が起きてないと思っていたのか。
雨の中外に出て、そして……。
目を覚ませば、知らない場所。
洋は、きょとんとしながら辺りを見回した。
よく観察してみれば、ここは病院だろうことがうかがえる。
目が覚めましたか、と様子を観察しに来た看護師が驚いて近寄って来た。
熱や脈を図っているうちに、医師が来て診察していく。
何か質問をされたが、何にも返さずにいると、困ったように首を振られた。
貴方は、二日ほど寝込んでいたのですよ、と言われてもそんな感覚は洋にない。
そう言えば、と思い出す。瀬名の家を飛び出したことを。
起きてみてみれば、病院服にうむ?と首を傾げる。
そっと、部屋から起きだそうとしてみれば、医者と看護師に慌てて止められた。
すごい慌てようだと洋は他人事のように思うが、彼らが邪魔して部屋を出ていくことも敵わない。
どうしようか考えるが、これ以上するとベッドの上に拘束されそうだ、とため息を吐く。
医師たちは洋に、何か用事があるのか、とかどこに行きたいのかとか色々聞いてくるが、洋に用事はないし、どこかへ行きたいという場所もない。
ただ、ここにいる用事も、洋には無いと言うだけ。
何処へ向かいたいのか、何をしたいのか、もうわからなくなってしまった。
いいや、違う。
元からそんなものはなかったのだ。
どうすればいい?
俺はどこから始めればいい?
迷い、洋はぼんやりとして体が止まった。
そのまま、看護師たちにベッドへと引き戻される。
そうこうしているうちに、京介と赤塚がそこに顔を出す。
「……何をしている?」
京介の登場に、医者たちはほっとしたような顔をした。そんなに京介が怖いのか?
それとも、洋を京介なら止められると思っているのか。
それは分からないが、洋は京介の姿もぼんやりと捉えていた。
「起きたのか」
それに洋が答えることはない。
京介は大口の出資者なのか、機嫌を損ねないようにと必死な様子がありありと医師や看護師からうかがえる。
「まただんまりか。いい加減にして欲しいものだな」
京介が洋を睨むが、洋は京介のことなどどうでも良いような態度をしている。
だが、洋の中では少しだけ疑問が生じていた。
京介は、自分がいらなくなったのではないのか?と。べつに、保護していた自分が勝手につかまろうが、殺されようが、率直なところ京介には関係のない、どうでも良い話だったはずだ、と。
どうして自分を助けたりしたんだろう、という疑問。
憐れむような顔で赤塚が見ていようが気にならない。
「お前は自分がどういう状況か分かっていたのか?一歩遅ければ、お前は死んでいたかもしれないんだぞ」
死は、駿河を思い起こさせるのか、京介はぐっと眉間にしわを寄せた。
「お前には分からない」
それは久しぶりに発せられた洋の声。
驚くと同時に、ひどく怒りがこみ上げる。
「お前が何も話さないのに、俺が分かるわけないだろう!!言いたいことがあるなら言え!!お前の口は何のためについている!?」
「……」
「まただんまりだ、いい加減にしろ!!」
「きょ、京介様」
流石に、医師が洋に詰め寄る京介を止める。
「私にもわかりませんね、貴方が何を考えているのか。あれだけ傲岸不遜だったあなたが、どうしてそこまでしなびれているんです?」
「……」
「話す意思がありませんか、まぁいいですけどね」
「美園」
はいはい、と赤塚は口を閉じる。
その間に落ち着いただろう京介は、ため息を一つ吐くと、洋へ告げた。
「明日また来る。それまでに状況を説明しておけ」
そう医師に告げると、踵を返し、病室を出ていった京介。
それに彼らははぁ、と安堵のため息を吐いた。忙しい人たちだな、と思う。
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