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第13話

「あか、ちゃん?」  己の下腹部を見て、洋は医師を見た。  医師は難しい顔をして、洋が妊娠していると告げる。  だから、先ほどあれ程までに焦って洋を引き留めたのだろう。 「極めて、稀なケースですが……直腸から通じるオメガとして覚醒すれば膣となる場所へ、刺激が与えられ、本来ならば成長するはずもない子宮が活動しだし、そこに精子を受けたため、受精したと考えられます。  しかし、大蔵さんの体はアルファのまま。このままでは、出産時には大蔵さんの体は持たず、最悪、母子ともに死に至るでしょう」 「産む……俺の子、なんだろう?生きてるんだろう?じゃあ、産む」  きらきら輝きだした顔で答えた洋のそれは、実に単純で、そして簡潔だった。  もともと、自分などどうでもよくなっていたのだ。自分の子供のために命を使えるのなら何よりじゃないか。  そう、考えてしまっても無理はない。  産むと決めた日から、洋は病院を退院できなくなった。絶対安静。24時間看護。性別がアルファの男ゆえに、それが、必要と判断された。  普段、あまり食事にも人にも興味を示さない洋は、子供のこととなると自分のことではないからか動き出す。  父親が誰かもわかっているはずなのに、洋はそれを考えることを辞めていた。いいや、子供に京介が興味を示すはずがないとも思っている。  運命を殺した自分が産む子供など、と。実際、京介は次の日にも見舞いに来たが、それについて話に触れることはなかった。  だから、産んだ後自分が居なくなっても、暮らしていけるようにと弁護士まで雇って、書類を整理している。  自分が助からないことが明白ならば、せめて子供は苦労などせずに育てるように、と、有名な孤児院を探したり、洋のわずかな財産を残そうとしてみたりと。  その間のことは楽しかった。子供がすくすくと育つことも、子供に何をしてやれるか考えることも。  その間はすべて忘れられた。家のことも、京介のことも。  どんな子が生まれてきても可愛いだろうと、想像しながら。  腹に、自分ではない命が宿っている、それが愛しくて仕方がない。それは実に初めての感情と言える。  胎動を感じて、幸せだと感じた。 「これはどういう事だ?」  それは子供の名前を考えているときのことだ。  突然入ってきた京介は、洋に向って書類を突き出しながら低い声で話す。  暫く見舞いに来ていなかったな、と思い出した。 「……?」  何ら不思議なことはない。弁護士との協議した結果、自分が子供にしてやれることを明確に書類に残したものの、映しだった。  どうしてそれを京介が持っているのか、という疑問は残るが。 「何が?」  本当にどうして京介が怒っているのか分からない、と言ったように洋は首を傾げる。  京介は興味の無いものだと思っているからか、全く何故怒っているのか見当もつかない。 「どうして子供が孤児院に入ることになっている?」 「どうしてって、俺が居なくなれば当然だろう」  何を言っている?と洋はますます首をかしげる。  洋にとっては、この子供にとっての唯一が居なくなるのだ、そのあとの事を考えれば当たり前のことだろう。何故、それについて京介が意見を出すのか、それが分からない。  産んだ自分が居なくなるのだから、と洋は思っている。 「俺の子だろう!?」 「違う、俺の子だ」  違う、と明確に否定する洋に京介は驚く。  洋にとって、誰の子供なんて関係ない。ただただ、自分が産む自分の子供、という印象しかない。 「俺以外とやったのか?」 「お前以外と?なぜする必要が?」  なんでする必要がある?と首を傾げれば、京介は話が通じない、と頭を掻く。  京介以外に興味はないし、あの家で赤塚とは話したが、赤塚以外に話した使用人もいない。 「とにかく俺の子だ、お前が居なくなったとしても俺が育てる」 「何で?」  洋は内心とても驚いていた。  京介が自分の子供に興味を示すなんて思ってもみなかったからだ。 「どうしてもだ!」  いいな!と京介は強制的に決めてしまう。  京介は、契約書を破り捨ててしまうと、はぁ、とため息を吐いた。 「どうしてお前は一人で考えるとろくでもない事しか考えないんだ……」 「……お前は何で俺を放っておかないんだ?」  こんなどうしようもない自分なら、捨て置かれてもどうしようもないだろうとは思うのに。  どうして捨てないのだろう?どうして構うのだろう?  その心が、真意が分からない。  まぁ、そもそも洋が京介の心内を理解できたことなど一度として無いけれど。

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