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第5話

 「もうええ」  キスを止めたのは、アイツだった。  僕の顔を押しのけた。  お互い気まずい。  でも、むちゃくちゃ気持ち良かった。  僕は抱きしめてしまっていたアイツの身体をてばなすのが少し惜しかった。    ヤバい。  キスってヤバい。  あんなんなんや。  でも、なんかもどかしなって、キスやないことをしたなってしまった。  キスより、なんかもっとこう・・・。  そこで正気に帰る  男同士やで。  ソイツはこぼれた唾液を袖で拭ってた。  どちらの唾液かもわからないと思ったらいやらしく感じた。  僕も慌てて唇を拭う。  アイツはうつむいて、気まずそうな顔をしていた。  頭を抱えて、何か言った。  「えっ何やの?」  僕は慌てて聞き返す。    「これで当分オナニーのネタには困らんいうたんや」  しれっとソイツが言った。  僕は絶句する。   僕のファーストキスはお前のズリネタかい。  コイツ最低や。  てか、僕でしてんの、コイツ。  そら、まぁ、そうやろうけど、僕が僕の好きな子おったらその子でするけど・・・。  コイツの好きな子は僕やと言うのがね。  でも、それ、言う?    さすがにどん引きしている僕を見て、ソイツはニヤニヤ笑った。   いくら他に思いつかなかったとしてもコイツを選んだのは失敗だったかと思った時、ソイツは言った。    「・・・絶対助けたる」  真っ黒な目が、強い熱量を持つ目が僕を見ていた。  なぜだろう。  信じられると思った。  コイツは僕をホンマに助けようてしてくれてる。  僕はコイツを信じることにした。  「今日、死ぬんはお前やない」  だから大丈夫だとソイツは言った。  並んで歩くと、身長は同じ位なんだなって思った。  同じ身長で抱き合うと、あんな風に互いに包み込むみたいになるんや、ふと、抱き合ったことを考えてしまう。  まだキスした熱が残っているせいだ。  キスってヤバい。  とりあえず、今からコイツの家に行く。  「なんで、次は僕やないって?」  僕は質問する。  両親からの着信がスマホにはたくさん着いている。   でも、家には戻らない。  家で警察に警護されてても死んだのだ。  閉じ込められられて死ぬより、せめて何か最期まで抵抗したい。   「お前、あんまり幽霊とか信じてへんやろ」  アイツは言った。  こちらをあまり見ようともしないで話す。  ボサボサの髪に覆われて表情は見えない。  「うん」  僕は幽霊なんか信じてない。  でも、これだけ死体が出たら何かは起こっていると思わざるを得ない。  「ずっと信じないでいられたら、大丈夫やったんやけどな。今は信じざるをえんから信じてるんやろうけど、でも、あんま信じてない。だからお前は最後になったんや。こういうのは信じてるヤツから影響を受けるんや。信じているからアレは本物になるし、力を増す。信じているヤツからやられる」  アイツは言った。  「お前ら俺をなんやと思ってるんか知らんけど、俺は別に幽霊とか怪奇現象のマニアやない。俺はこの世界とあの世界の狭間の研究をしとるんや・・・興味ないやろ詳しい説明はせん。でも言えるんは、ああいうもんは信じているから害をなす。だから、信じているヤツからやられたんや。お前最後や・・・俺とキスもしたし・・・」  最後ボソッと言った。  「キス、関係あるん?」  僕はびっくりした。  「セックスと同じでキスも体液の交換や。互いの気を取り入れる意味がある。弱ってるヤツはセックスせんやろ。生命力の象徴や、心や身体が弱ってるヤツからやられる」  アイツは言った。  「ほんなら、お前僕を助けよう思って・・・」  ちょっと反省する。  キスを無理強いされていたかと思った。  「いや、無理やりでもしたかっただけや」   アイツは言い切った。     見直したったのに。  見直しだったのに。  自分で台無しにしたで、このアホ。  「・・・お前絶対もてへんな」  僕は言った。  「・・・知っとる」  なんか小さい声でソイツは言った。    ソイツの家は広かったが、全く広さの意味がなかった。  本だらけなのだ。  廊下以外は積まれた本だらけだ。  散らかっているわけではないが、どの部屋にも本棚があり、入りきれない本が床に積まれていた。  通された居間にも少し本が侵食していた。  「俺のやない。爺さんのや。俺も読むけどな」  ソイツは言った。  お茶を入れてくれた。   少し浮かれているように見えるのは気のせいだろうか。  お菓子も出された。    なんか高そうな和菓子。  「お爺さんと2人で住んでんの?」   僕は聞く。  人の気配がない。  住んでいるとしたら、2人でだろう。  「まあな。爺さんはなんか探しに行ったら数ヶ月は帰ってこんけどな」  ソイツは事も無げに言った。  実質、1人暮らしなのか。  ちょいまて。  「そうや、お前・・・俺とこの家で二人きりなんやで」  アイツはニヤリと笑った。  座卓で向かい合わせに座っていた。  「・・・怖いか?嫌か?」  アイツが聞く。  髪が顔を覆って、薄笑いを浮かべた口元しか見えない。  でも、湯飲みを握るソイツの指先が震えているのが見えて。  キスした時に震えてたソイツの身体が思い出されて。  怖くないと言ったら嘘になる。  キスまでさせられてしまったし。  でも、良くわからないけど怖いのはコイツも同じなんやと思ったら、割と平気になった。  それに、それどころやないし。  「平気やで」  僕はきっぱり言った。  「嘘や。無理やりキスされてなんで平気やねん。男の舌まで吸って吸われて、絡まされて、口ん中舐めまわしたり、舐めまわされたり、唾液飲んだり飲まされたりして、なんで平気やねん」  アイツはボソボソ言い出した。  なんやのコイツ。  なんで、僕が平気や言うてんのにそんなん言い始めんねん。  しかも、何その生々しいのは、そんなん、そんなん言うな。  「俺はお前とのキスを思い出して、明日から毎日オナニーするんやぞ。そんなヤツと一緒におってなんで平気やねん、嘘つくな。今日かてお前がおらんかったらしみじみ一晩中オナニーしとるわ」  なんか言ってるし。  僕は真っ赤になる。    「嘘つくなや。キモイやろ、怖いやろ」  アイツは半笑いで言う。  ああ、もう!!  「いいかげんにせぇ!」  僕は怒鳴った。    

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