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第6話

 僕はアイツの襟元をつかんでしまった。  アイツの顔を見て文句を言いたくて、うざい前髪 かきあげた。  露わになった顔を見て、僕は動揺した。  なんなん、それ。  泣きそうな顔をしていたからだ。  口であんな嫌みたらしく、ネガティブなこと言ってるくせに、嘲笑うみたいに言ってるくせに、隠されていた顔は涙を浮かべていたからだ、  傷ついた、繊細な顔。  真っ黒な目が涙をたたえてふるえていた。  僕は思わず、掴んだ襟元を外して、ソイツの頭を引き寄せてしまった。  「嫌やないって言ってるやろ・・・」  座卓に向かいあったまま抱き寄せてしまった。  いやまて、僕。  僕もどうかしてる。  でもソイツの頭を胸に押し付けて、髪を撫でるのを止められなかった。  なんなら、覚えたてのキスがしたかった位だ。  そのままだったらしてしまったかも。  僕がアイツを離せたのは、ムードもクソもないアイツが言ったからだ。  「勃つから触るな・・・」  アイツのセリフに正気にかえった。  コイツなんで、一々セリフが生々しいんや。  ホンマ、もてへんぞ、こんなんゲイとかそんなん関係ないぞ、人間としてのデリカシーやで。  とにかく、僕はアイツの身体を放し、僕達は真っ赤な顔のまま話を続けた。  そう、それどころやないのだ。  死んだらキモイもキモくないも何もない。  「元に戻さなあかんな」   アイツは結論づけた。  とりあえず、今までの流れをソイツの質問を受けながら細かく話した。  結構ソイツは僕達になにがあったのかを詳しく知っていた。  あちこちから聞き出していたのだと言う。  まあ、コイツが興味を持ちそうな出来事ではある。  「霊能者やらなんやら知らんけど、専門家がどないもできへんものを俺がどうにか出来るわけはないやろ。俺が考えているのは、お前らがこの世界に呼び込んだものを、元の場所へお帰りいただくってことや。これなら俺の専門や」  ソイツは説明してくれた。  「俺はお前らが行く前に忠告したはずや。怪談が出来上がっている場所に面白半分で行くのは良くないって。そういうところはきちんと道が出来上がってしまっているからな」  呪われた場所、何かを持ち出す。  呪われる。  行く人間もそれを信じて行くからこそ、その道が出来あがってしまう。  「1日ひとりづつ殺されているのも、その怪談話の通りやろ。意外かもしれんが、ああいう怪異はこちらが作った法則通りにしか動けないんや。こちらでは」  僕は反論する。  「でも、何も持ち出してへんで僕らは」    「ドア壊したやろ。そこにあったモノを無くしたってことでは同じや。つまにりお前らが壊した扉をもう一度塞がないとあかんてことや」  ソイツは言った。  「じゃあ、今から塞ぎに行けば・・・」  僕は取り乱し、泣いていたもう1人生き残った友人を思う。  アイツも死なないですむかもしへん。  「あかん」   ソイツは言った。  「もう夕暮れ時や。逢う魔が時いうてな、アイツらの力が増す時間や。みんなこの時間位に死んどるはずや。そんな時に動いたらあかん。可哀想やけどな、アイツはあきらめろ」  「そんな・・・」  僕は混乱する。  「・・・なんで早よ助けてくれへんかったんや、みんな死んでしもたやないか、なんでや!」  僕はソイツをせめてしまった。  わかってる。  自分の罪の意識をアイツに押し付けているだけや。  「ふざけんな。俺は忠告したで・・・それ無視したんはお前らやろが。こうすりゃいいって俺だって完全にわかっているわけやないんや。俺かて危ななるんや。なんで一個しかない命、面白半分で危ないことしたお前らにやらなあかんのや!俺の命は俺のもんや!」  アイツは怒鳴った。  尤もだった。  アイツが僕達のために命を危険にさらす道理はどこにもないのだ。  「ごめん・・・お前、もうええんやで。明日僕1人で行くから、もうええんや。キスの一つで危ないことする必要あらへん」  僕は謝った。  僕のキスにそこまでの価値はない。  明日は1人でいこう。  「アホ、お前が1人で行って何ができんねん。俺は言うたはずや。絶対に助けたるって」  ソイツは怒鳴った。  めっちゃ怒っとった。  「そやけど、キス位でお前・・・」  僕は言う。  アレだけのために死ぬのはアホや。  「・・・キスは関係あらへん。ちょっと思いついただけや。お前に助けてくれ言われる前から・・・助けよう思もてた。・・・俺なんかに助けられるんが死ぬより嫌かもしれん思って・・・怖くて言い出せんかった」  アイツはボソボソ言った。  「俺は自分が嫌われることのが、お前の命より大事やった最低なヤツや。・・・しかも、お前のファーストキスまで奪ってもうたしな。でも、助ける。絶対助ける」  アイツは皮肉な笑顔を僕に向けた。  「いや、お前が僕のためにそこまですることないって」  僕は慌てる。  「・・・好きや言うたやろ。ホンマに好きや。俺かて、好きな子1人くらい助けたいところはあるんや。なめんな、ボケが、アホ!」   アイツが言う。  罵られた。  「いや、好きな子って僕やんな。それ好きな子に言うセリフかいな?」  僕は呆れる。  アホ、ボケって。  「助ける。絶対助けるから・・・そしたら、俺のこと命の恩人として記憶してくれ。キモイ、やなヤツに告白された風にやなくて」  アイツは言った。  僕は唖然とした。  コイツ、僕に好かれる気はサラサラないことがわかって。    コイツ。  確か言ってた。  「お前の気持ちなんかいらん」って。  というより、僕に好かれる可能性なんか一ミリも考え方ないんた。  好かれるはずがないと決めつけている。  だから平然と嫌なことも言える。  これ以上嫌われることなんかないと思ってるから。    どんだけ、ネガティブやねん!  僕は呆れた。  「だから絶対助けるから・・・」  アイツがうつむきながら言った。  「あのな、お前なぁ」  僕が言いかけた時、スマホのバイブが鳴った。  親からだ。   家には帰らないけど心配してるだろう、連絡は入れておこう。  「もしもし」  僕は出る。  「何しとるんやお前、  君が死んだぞ!」  父さんからだった。  逢う魔が時。  友人が殺された。     これで僕1人。  「自殺した」  父さんが言った。  自分で喉を包丁で切ったらしい。    そうか。  逃げる方法はもう一つ、殺されないためにはその方法もあるのか。    ていうか、殺せなかったなら、僕のとこに来るんじゃないか、「殺すモノ」が。         僕は父さんに大丈夫、明日の夜には生きて帰るとだけ言って電話をきった。  「大丈夫やと思う。自殺も呪いの範疇なはずや。死体は1日一体あればいい・・・はずや」  電話の内容が聞こえたらしくアイツは言った。  「僕は酷いな。友達が死んだのに、そいつが自分で死んだから、僕が殺されるかもとしか思えんかった」  僕は呟いた。  自殺。  それも逃げる方法なのか。  何かから逃れられる・・・。  「妙なことは考えんな。お前は俺が絶対に守る。お前は明日の夜、生きて家に帰るんや。信じろ」  アイツは言った。   やはり、アイツの言葉は、何故か、信じられた。  僕は生きて家に帰る。    

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