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第12話
「ごめん・・・お前は男に興味なんかなかったのに・・・ごめん。でも、ちゃんと女の子と付き合ったら多分、こんなん忘れる・・・」
謝り続けるソイツを胸に抱いていた。
震えて泣いてる。
可愛いはずなのに、腹が立つ。
「もう、黙って・・・」
僕は言う。
そんなこと聞きたくない。
でも優しく髪は撫でる。
好かれてないのにするのは辛なる、か。
アイツの言葉が響く。
辛い。
気持ちが伝わらないのは・・・確かに辛い。
でも、僕はアイツを抱きしめ続けた。
優しく抱きしめたら、気持ちが伝わるんじゃないかって思って。
アイツは目をとじていた。
閉じたまぶたから涙が零れていく。
可愛い。
腹立たしい。
辛い。
可愛い。
僕の気持ちはぐちゃぐちゃになっていた。
夕暮れが近づき、アイツはサボテンを食べた。
「量が難しいんや」
アイツは言った。
「下手すりゃ、意識不明になるし、単なる幻覚だけを見ることになる」
そんなものを食べていいのかと僕は心配した。
「何回も試しとる大丈夫や」
アイツは笑った。
そして、ふと、そっと僕の唇に優しく唇を重ねた。
一瞬だったから呆気にとられた。
そして、ソイツからキスをしてきたのが初めてだったことに気付く。
「ごめん、な。これで最後やから」
アイツはふわっと笑った。
「お前・・・僕とするの嫌や言うてたところやん」
僕は愚痴る。
「ん、だから最後や」
アイツの笑顔をはじめてみた。
泣き顔が一番可愛い思てた。
でも、なんやの、それ。
皮肉な笑顔じゃなくて、ふわりと笑った笑顔の可愛さは・・・殺されるかと思った。
可愛い過ぎる。
泣かせたい思ってたけど、笑わせたい。
いや、でも泣かせたい・・・。
僕は混乱する。
でも、それは次第にアイツの息が荒くなるまでで、アイツは真っ青になっていく。
「おい!」
僕はアイツを揺さぶる。
「大丈夫や。ええ感じや。お前も視るんや。意識を集中しろ、ソレがくる。ソレがどういう風に来るのか・・・俺には分からん」
アイツは虚ろな目をして宙をみていた。
僕も夕闇がせまってくるのを感じる。
闇がぼんやりと部屋の隅に溜まっていく。
境目なのだとアイツに説明された。
この世界とあのあの世界の境目。
境目がソレをこの世界でソレを現実化させる。
闇と光が混雑するこの時間こそ・・・。
逢う魔が時なのだ。
ばん
ばん
ばん
突然音が響き渡った。
あちこちの部屋のドアが開けられる音だ。
アレが現れたのだ。
そして僕を探しているのだ。
「あぬこののほほふそよなかのよゆらよりにゆ」
声が響く。
それは人間の言葉ではなかった。
「やなゆこゆむなやきいやにをら」
それは吠えた。
姿はまだ見えない。
でも僕は全身に鳥肌が立っていた。
「のんらわまたかやわにさら!!!!!!」
それは男の声でも女の声でもなかった。
複数の声が重なるような声だった。
夕闇が濃くなる広間の隅からそれは這いずるようにあらわれた。
「見えてるか」
僕はアイツに言った。
「見えてへんかったら良かった思てるわ」
アイツが答えた。
ソレが吠えた。
「えこよわふそらまかこゆたははわやわ、!!!!」
そう、見えなければ良かった。
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