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第14話

 アイツはまた和紙を取り出した。  人型に切り抜かれたそれ。  僕の名前が書いてある。  やはり身代わりを作る気なのだ。  「・・・もう、髪の毛使った身代わりじゃ、コイツには効かへん」  アイツは僕を見て微笑んだ。  「オレは昨日からお前と散々キスしてるし、セックスみたいなこともしてる。お前の精気を多少は受け取ってるわけや。ホンマはお前に中出しさせてたら一番良かったんやけど・・・お前にそこまでは出来へんやろし、させたらあかんし・・・俺かて怖い」  何言ってるんやコイツ。  僕は嫌な予感がした。  「お前の精気を受けたこの身体を身代わりに使う、だからお前はドアを閉めろ」  アイツは笑った。  ふわりと笑った。  真っ黒なコイツの目が揺れるように僕を見た。  僕は理解した。   コイツ、僕の身代わりになるつもりやったんや、最初から。  コイツならする。  平気でする。  僕がコイツを何とも思ってないと思ってるからできる。  自分が死んだところで何の影響もないて思っとるからこのアホが。  「アホ!止めろ!」  僕は叫んだ。  「言ったやろ、絶対に助けるって!」  アイツは笑ってその和紙を飲み下した。  アイツは叫んだ。  「来いや!化け物!」  ソレはアイツの声が初めて聞こえたかのようにドアの方を向いた。  ソレがアイツに向かった。  僕は鉈だけをつかんて、檻を飛び出した。  ダメだ。  ダメだ。  ダメだ  アイツは僕の姿になっていた。  むしろ微笑んでソレに向かってアイツは腕を伸ばした。  「しこほりのたきら!!!」   ソレは歓喜の声をあげ、アイツのその腕にかじりついた。    「やめろ!!それは僕じゃない!!」  僕は絶叫して、化け物の首を斬りつけた。  ガツン。  全く刃がたたなかった。  何度たたきつけてもだめだ。  ダメだ、斬れない。  「部屋をでてドアを閉めるんや!」  アイツが僕の姿で叫んだ。  腕が食いちぎられかけている。  いくら引っ張ってもソレをアイツから引き離せない。  ソレの腕がさらにアイツの喉へ伸ばされようとしているのが見えた。  首を千切る気だ。  ダメだ。  ダメだ。  とうすれば。    迷う暇はなかった。  僕は鉈を振りかざし、思い切り振り切った。    絶叫する声。  僕も叫んでいた。  何故なら僕が切り落としたのは・・・ソレが食いついている、アイツの腕の方だったからだ。  ソレは腕を引っ張っていた自分の力で、部屋の隅まで吹き飛んだ。  腕そのものはソレに食いつかれたままだったが、これで身体をソレから引き離すことはできた。  そして、僕はソイツを抱えて、ドアの外へ飛び出した。  ドアを飛び出した瞬間、ネズミが雨のようにふってきた。  僕も、抱えたソイツも、ネズミの歯を全身に感じた。  でも、僕は全身をネズミにたかられながらドアを締め切った。  「てこれらはさなを!!」  ドアの向こうで吠える声を聞いた気がする。  僕はソレを封じることに成功したのだ。  そのドアがしまった瞬間、ネズミも僕達の上から飛び退いていった。  ネズミの群れが四散した。  どこかへ逃げでいく。  消えて・・・しまった。  僕はペタンとソイツを抱えたまま座りこんだ。    ソイツはもう、僕の姿ではなく、ソイツの姿に戻っていて・・・。  でも片腕を失い、血を流していた。  僕は絶叫した。  僕は。  僕は。  コイツの腕をこの手で切り落としたのだ。

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