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第18話
「おきんかい」
蹴られて目覚めるのは二回目だった。
しかも蹴られてるのは顔面だ。
僕は起き上がる。
蹴られても文句は言えない。
叩き出されても仕方ない。
玄関なんかで手酷く抱いた。
いや、犯した。
嫌がるのを無理やり。
・・・僕は最低だ。
「・・・朝飯食うやろ」
アイツは意外なことを言った。
めちゃくちゃ普通だった。
僕は言われるがまま、朝ご飯をご馳走になった。
ええって思った。
何、コレ。
意味がわからない。
ご飯の準備とか手伝おうとしたけど、拒否された。
「リハビリで練習したことを実践しなあかんねん。片手でも上手に包丁も使えるんやで」
アイツは笑った。
胸が痛んだ。
「・・・気にすんな。俺は器用やし、俺の価値は俺の頭脳にこそある。他のヤツなら困るんかもしれんが、俺に関してはお前が気にするほどのことは何もない」
アイツは言った。
そして、少し赤くなりながら呟いた。
「・・・お前が俺の身体、もう嫌になるかもしれんと思ったんが一番つらかったんや」
小さい声だった。
僕も赤くなる。
何で。何で。何で。
何で昨日のあれで、こんなええ雰囲気になるの?
どういうことやねん。
むしろ、あんなことしでかす前より良くなってるやん。
「来んな」とか言われてたんやで。
とりあえず、モソモソご飯を食べた。
せっかく作ってくれたのに、味なんかしなかった。
どう話を切り出せばいい。
とにかく、土下座や。
頭下げまくれ。
僕はめちゃくちゃ必死で許してもらう方法を考える。
そんな僕にアイツが言った。
「・・・お前はなんや、ああ言う性癖・・・なんか」
真っ赤になっていた。
はい?
僕は耳を疑った
「なんかこう、酷いことするのが好きな性癖なんやろ・・・」
アイツがそれでも、真剣に僕を見つめながら言った。
ああ、そうなのか。
僕がプレイとしてああいう酷いことをしたという解釈なのだね。
これは良かったのか悪かったのか。
それに・・・性癖じゃないと否定出来ない部分もある。
あるのだ。
「ええ、と」
僕は口ごもった。
「お前が俺としたいんは分かった。俺の身体でも勃つんも分かった。つまり、なんや、お前みたいな性癖のもんには俺の身体はそれなりに・・・魅力的なんやな?」
おい、なんかスゴイ解釈が始まったぞ。
僕は見えないはずの空を仰いだ。
「・・・ええで。お前がしたいんやったら・・・しても。たまにやったら・・・ええ。俺はお前のこと好きやから、お前の性癖に付き合ってもええ。・・・そういう趣味やったら早々相手見つからんやろ・・・高校生やし・・・」
アイツは真っ赤になって言った。
それを言うのに勇気がいたのは分かった。
震えているからだ。
僕はため息をついた。
違う。
違うけど・・・。
全然分かってないけど・・・。
ネガティブなりに、必死に僕といようとしてくれているのは分かった。
「・・・俺じゃ、やっぱり嫌か・・・」
ため息を違う風に捉えてアイツはうつむいた
「違うんや。嫌なわけがない。お前以外としたいと思わん位、お前が好きや」
僕はきっぱり言った。
「俺の身体は・・・お前にはそれなりに魅力的やねんな?」
アイツが少し嬉しそうに笑った。
コイツのネガティブは十何年かけて積み重ねてきたモノや、すぐにどうなるもんでもない。
それに、僕はムカつく時があっても、このゆがみさえ愛しい。
命を僕のために捨てようとしたり、腕を失っても構わないと思ってくれたり、酷く扱われることさえ受け入れようとしてくれる。
そのくせ僕がアイツを好きなことは受け入れられない。
歪んでる。
歪みきっている。
そして、多分僕も歪んでいるのだ。
「ホンマに好き」
僕は言った。
コイツは自分の身体のことを言ったのだろうとしか受け取らないだろう。
でもいい。
今はそれでいい。
アイツが僕の言葉にまた笑う。
「好き。めっちゃ好き。誰よりも好き」
僕は言い続けた。
「もうやめ。ヤらしい」
アイツは真っ赤になった。
何でそれがヤらしいねん。
「・・・あんまり酷いことは・・・あんまりせんといてな」
アイツが小さい声で言うので、勃ちそうになった。
あんまりでええんですか、してしまってもええんですか。
やはり僕はそういう性癖なのかもしれない。
ヤバい。
色々してまうかもしれん。
「お前変態やってんなぁ」
しみじみ言われて、ちょっとキレる。
「お前かて、オナニストやないか」
僕が言ったらアイツはそこは平然としてた。
「一生をかけてオナニーを追求するつもりやったからな」
アイツは言い切った。
ああそう、そういうのは平気なんや。
僕、お前の恥ずかしがるポイントわからへんわ。
「・・・道具使って一人でしてるとこ、今度見せてや」
僕は言った。
変態認定されているんだ、もう、何でも言う。
さすがにアイツは赤くなった。
「やっぱりお前変態やん」
アイツは呟く。
僕はアイツの頭を笑って撫でた。
コイツは僕が好き。
どんなに酷いことをされても僕が好きなことを止められないのだ。
自分の命よりも僕に執着しているのだ。
それは歪んでる。
そして、それが嬉しい僕も歪んでいるんだ。
でもいい。
それでいい。
「・・・お前のこと知りたいわ、もっと」
僕は言った。
「そんなヤらしい話は朝からはせん」
どういう解釈したらそういう話になるねん。
僕は呆れたが、そういう話にはもちろん興味があった。
「それ、聞かせてや」
ねだる。
アイツはまた真っ赤になる。
ずっと真っ赤なままのソイツが愛しかった。
僕らはきっとこんな風に歪んだまま・・・互いの隣にいられるだろう。
そんな気がした。
それが嬉しかった。
END
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