幼なじみと彼は一緒に育った。 　 　母親同士が親友で、近所で暮らしてた。 　最初から家族同前だった。 　小学生のころ、幼なじみの母親が死んでからは、彼の母親は幼なじみを我が子のように扱った。 　仕事が忙しい幼なじみの父親の不在時には家で彼と一緒に育てた。 　いつも隣りいた。 　いるのが当たり前だった。 　好きも嫌いもなかった。 　神経質で気の強い彼、おっとり優しい幼なじみはいいコンビだった。 　 　いや、神経質だね、と笑われるだけですんだ幼い頃。 　他人を遠ざけた中学時代。 　そして高校生の今では幼なじみ以外の人間とは一緒にいれなくなってしまっていた。 　身体が大きくなっていくにつれて、彼は怯えた。 　性的なものを嫌悪した。 　最初は身体に触れられるのが苦手なくらいだった。 　最初から彼はベタベタしない子供だったので大した問題だとは思われなかった。 　でもいつからだろう。 　触られるのを拒否した 　何故嫌なのかわからかった。 　でも、幼なじみは替わらず側にいたし、彼だけは嫌がることは絶対にしなかった。 　 　両親は「潔癖が過ぎる」と心配したけれど、彼は別に困らなかった。 　幼なじみがいたからだ。　 　幼なじみは優しく側にいてくれた。 　男の子達が集まってするいやらしい話も嫌だった。 　乱暴なスキンシップも嫌だった。 　女の子は怖くて避けていた。 　自然、幼なじみとしか一緒にいなかった。 　幼なじみは、守るように側にいてくれた。 　いてくれたから、他には誰もいなくても気にならなかった。 　他愛のない話をし、隣りでいつも。 　決して触れない距離なのに、心は触れ合うようで。 　彼は幸せだった。 　満足だった。 　不満などなかった。 　でもそれは彼だけだったと思い知らせるようになる。 　 　　幼なじみがある朝言った。 　向かいの家からいつものように迎えにきて。 　「今日から一緒に行けない。一人で行って」 　声は優しかったが、その言葉に彼は打ちのめされた。 　「どうしてだよ？」 　彼は必死で聞く。 　たまに喧嘩ほどではないけど、言い争うことはある。 　それでも絶対に二人は折り合いをつけ上手くやってきたのに。 　幼なじみは何も言わず、彼を見つめた。 　いつまでも華奢なままな彼とは違い、背が高くなり、かなり見上げなけれはならなくなっていた。 　幼なじみが、大きな身体を持っていることに今更気付いた。 　 　放課後、彼が本を読んでいる間、幼なじみは陸上部で走っているのだ。 　鍛えられた肉体の存在感にも何故かはじめて気づく。 　幼なじみの中身以外を気にしたことはなかったのに。 　彼とは違い、もう少年では男の匂いがする精悍な顔立ちになっていることにも気付く。 　まるで知らない人のよう。 　いつも優しさを湛えた茶色の瞳だけは、同じだったけれど。 　「一緒にいられないから」 　幼なじみは静かに言った。 　 　そんなのは答えじゃなかった。 　「そんなの納得できない！！」 　彼は叫んだ。 　幼なじみは悲しそうに微笑み、背を向けた。 　そんな風に背を向けられたことなどなかった。 　「嫌だ！！」 　彼がそう叫んだのに、幼なじみは振り返りはしても、悲しげに見つめはしても、足を止めもせず歩いていってしまった。 　そんなこと。 　そんなこと。 　一度もなかったのに。 　　 　彼は茫然と去っていく幼なじみを見送っていた。