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第12話

 まだ神経質な子供でしかなかった小学生の彼と、幼なじみはクローゼットの中で息を殺していた。  母親から隠れよう、そして飛び出してびっくりさせよう。  そんないたずらを思いついたのがどちらだったのかわからない。  ただふたりは暗く狭いクローゼットの中で身体を寄せ合った。  まだこの頃は彼は必要がある接触なら気にせずに受け入れていた。  隠れる楽しみの方が、その後の母親の驚く顔の方が多少の不快感より大切だった。  それに何より、彼も幼なじみも、自分と相手に境目などないように感じていた。  互いの心は分かり合っていた。   全てを共有していた。  自分が自分に触ることが不快なはずがない。  身体を寄せ合い、笑い声をこらえる。  母親が二人を呼ぶ声がおかしくて仕方なかった。  顔を見合わせて声を出さずに笑い合う。    部屋に母親が入ってきた時に、おかしさはピークに達していた。  母親が自分達の名前を呼ぶ。    あともう一回呼んだなら、飛び出して母親に笑ってみせたかもしれない。  「いないのか?」   もう一人の声に飛び出すのを止めた。  低い声。  二人は顔を見合わせた。  それはここにいるはすがない、仕事にいっているはずの、幼なじみの父親の声だったからだ。  「あちらの家で遊んでるんだろう。しばらくは帰ってこないさ。あの二人はお互いがいれば十分なんだから」    幼なじみの父親は彼の母親に囁く。  その囁きが甘いと感じたのは何故だろう。  「そんなことより・・・」  父親の声は確実に甘くなった。  外を覗くため微かに開いているクローゼットの扉からは、彼の両親のベッドが見えて、そこに二人が倒れ込むのが見えた。  「子供達が帰ってくるわ」  母親はそう言いながら、服を脱ぐ。    「知ってるだろ、あの子達は二人いれば何時間でもじゅうぶんなんだ。晩飯までは帰ってこないさ」  父親は母親の胸を鷲掴みにし、揉みしだいていた。  母親は喘いだ。  苦痛のまじった、快楽に酔っていた。    父親は笑った。  「一度だけ。またゆっくり泊まりでしよう」  父親は母親の胸を歯を立てて噛んだ。  母親は二人が帰って来ないことを確信して、声をあげた。  傷みを喜んでいた。  自分の父親と彼の母親が何をしているのかは、幼なじみにはわかった。  そして、彼も。  二人は動けなくなった。   二人は確かに性の知識はおぼつかなかったけれど、これがセックスであることはわかっていたし、何よりも、二人が彼の父親と子供達を裏切っていることはもっとわかった。  母親は死んだ親友を裏切り。      父親は死んだ妻を裏切っていた。  おそらく彼女が生きていた頃から。  何故かそれもわかった。  そこに愛情がなかったから余計に。    二人のセックスには甘さはなかった。  凄まじい欲望だけがあった。  背中から貫かれ、彼に似た優しい顔立ちのほっそりとした母親は獣のように叫んだ。  幼なじみに似た大きな身体の父親は母親の髪を掴み、腰を乱暴に叩きつけた。  それはセックスだった。  セックスのためだけのセックスだった。  二人は互いを貪りあっていた。  互いから奪うようにするセックスだった。    裏切り楽しむ快楽。  母親が激しく腰を振るのも、父親が母親の性器突き上げるのも、醜くてたまらない、汚らしさがあった。    幼なじみが真っ青になっていた。  潔癖な彼に耐えられるものではなかった。    彼は彼の優しい父親を愛していた。  母親も愛していた。  幼なじみの父親も大好きだった。    だから今見せつけられているグロテスクなモノは、もっと恐ろしいモノだった。  幼なじみは彼をとっさに抱き締めた。  いやいやするように首をふり、小柄な彼は幼なじみの胸の中に小さくなった。  震えていて、暖かで。  首筋が細くて。  髪がやわらかで。  ズクン  幼なじみは股間に疼きを感じて戸惑う。    彼は震えて泣いている。  抱きしめている。  熱い身体。  中に入りたい。  それは初めての欲望だった。  自分に良く似た父親が、彼に良く似た母親を組み敷き、叫ばせている。    「もっとして」  母親は白い細い喉をそらして叫ぶ。  細い喉は彼の喉に似ていた。  彼の白い喉から目が離せない。  幼なじみを抱きしめる。  守るために抱きしめているのに、腰が動いてしまう。  幼なじみはもう何されてもわからない虚脱状態にあるのはありがたかった。  「これが好きだろ」     父親が笑う。  酷い突き上げが繰り返される。  「もっとちょうだい」  母親が叫ぶ。  抱きしめた彼の脚に自分のものをこすりつけてしまう。  外の光景は自分が彼としているみたいだ。    そう思えば、何故かグロテスクさは消えていた。  幼なじみは恍惚とその光景を見つめ続けた。  自分と彼のいずれする光景として。  互いが同じ物ではなかったのだと、幼なじみは知った。  同じ物ならば、溶け合う必要がない。  違うものだから・・・互いの中に入りたいのだ。  彼と違って幼なじみには父親達も母親達も関係なかった。  最初から。  彼さえいればよかった。  そして、意識を失った彼の脚に自らをこすりつけて初めて射精したとき決めたのだ。  彼とすることを。     そして、誰にも渡さないことを。      

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