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第13話

 二人がシャワールームへ消えた時に、彼を担いで、向かいの自分の家に行った。  彼をベッドに寝かせ、寝顔にそっとキスをした。      額だけ。  いずれ、口にもする。  身体中にする。      母親が夕食に呼びに来るまで、幼なじみはベッドの傍らで彼を見つめ続けていた。  これから先のことを考えながら。  目覚めた彼が何も覚えていなかったのも、それほど驚きはしなかった。  優しい彼に父親に母親と幼なじみの父親がしていたことを告げることなど出来ない。    母親を憎むことも出来ない。  そうするしかなかったのだろう。  ただ母親の手さえ避けるようになった。  そこからはもう、誘導してやるだけで良かった。  他人は汚い。  セックスは汚い。    でも幼なじみだけは違う。    そう誘導することは簡単だった。     嫌悪のスイッチは許可なく触ることだ。  乱暴なセックスを見た彼は無理やり触られることに嫌悪感を持っていた。  今にして思えばああいうセックスもありだと幼なじみは思っているけれど。     でもたしかに大事な人とはしないセックスだ。  彼以外とする時は自分もそんなものだ。  彼にすることを想定して優しく抱く時もあるが、酷く抱く方が楽しい。  父親との意外な共通点は若干気持ち悪い。  父親や彼の母親が何を考えているのかはどうでも良かった。    彼を抱いて自分だけのモノにするための方法を模索し続けた。  潔癖症は好都合でしかなかった。  彼が自分を好きなのは知っている。  好きなことは当たり前のことだ。  そんなことではない。  彼を縛り付けないといけない。    自分だけにして。  逃げられなくして。    彼を抱こう。  それを自分の意志で選択させないと。    潔癖症の彼をフォローし続けた。  彼がそれを克服しようなんてしないように。    そして、汚らしい欲望への嫌悪を肯定し続けた。  触れて汚されることへの恐怖を煽った。  勝手に触れられることは汚ない。  それを徹底して煽った。  それ程難しいことではない。  誰かに触れられて、嫌がる度に言ってやればいい。  「お前が嫌がるのは仕方ないよ。許可なく触られたら誰だって嫌だよ」  自分はそんなことをしないことをアピールして。  その日まで触れない。    安心出来る距離で過ごす。  てはいえ、成長して綺麗になっていく彼への欲望を抑えるために、彼の知らない場所で何度となく欲望を解放しなければならなかった。  真面目な話、実践の必要もあった。  彼を前にして、余裕なく貪るなんてことがあってはならない。  それに彼を気持ち良くしてやるために技術を磨く必要があった。  セックスを怖がる彼を気持ち良くして、自分に心も身体もひらかせないといけないのだ。    彼が眠った夜に、試合や合宿にかこつけて、沢山経験を積んだ。  女も男も、抱くのも抱かれるのも全部した。  誰だって一緒だった。  イク時は、彼の顔を思い浮かべた。    この腕の中に閉じ込めて、逃がしたくないのはひとりだけ。  実際、最後までしていないのに、今夜彼としてセックスとは言えないセックスは最高だった。  最後までしたら自分はどうなってしまうのだろう。  「愛している」  囁く。  罠を張り、病的なまでの計画をたてて。  一生閉じ込めてしまおうと思っていた  自分の方が彼を愛しているのだと。  「お前には勝てない」  抱きしめながら囁く。  目覚める前に身体を綺麗にして、布団でくるんで直接触らないようにして抱きしめてあげる。  その方が安心するだろ?  幼なじみは思う。  好かれていることには疑問などなかった。  彼には自分しかいないのだ。  そうしたから。  綺麗で近寄り難い幼なじみ、人との接触を嫌う幼なじみ、遠巻きに観ることはあっても、誰も近付かないし、近付くものは排除してきた。  自分が好きな理由は自分しかいないからだと思っていた。  構わなかった。      

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