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ピュア 第1話

 喰われるかと思った。  巨大な身体が自分を覆い隠すように立っていた。  大きな背中を曲げて、ソイツはオレを覗きこむ。  大きい。  本当に大きい。  凶暴さを隠そうともしてない顔だ。  整っていると言えなくもない、荒さはあっても精悍な顔は、表情がないのにその目の飢えたような光と暴力に慣れきった雰囲気が凄みを与えていた。  正直、驚いた。  こんな、こんなヤツやばすぎるだろう。  190センチ位はあるんじゃないだろうか。  背だけじゃない。  ナチュラルに身体がデカい。  一生懸命鍛えて作った身体ではなく、生まれ持って強い人間の身体だ。  そうオレとはちがって。  こっちは残念ながら160センチちょいだ。  それでもオレは俯いたりしない。  何故なら、オレは教師だからだ。   こんな、こんな、プロレスラーみたいなヤツが生徒にいることは想定してなかったが、オレはオレは、先生なのだ。  一応。  びびってたまるか!!  「席に着け!!今は授業中だ。トイレだったら仕方ないが、それでもオレに言ってから行け。オレの授業中に勝手に教室を歩き回るのは許さない」   オレはきっぱり言った。    声が震えてないことを祈った。  これでもオレは身体こそ小さいものの、いや、小さいからこそ空手をしていてそこそこ腕に自信はある。  でも、だからこそ、相手の力は見くびらない。  コイツ、強い。  たまにたまにいる。  ナチュラルにバケモノみたいに強いヤツ。  でもな、だからと言って、コイツに何も言えないなんてことは絶対に嫌だ。  オレは睨みつけた。  何故かソイツはオレの顔を覗きこもうとし、かなり背中を丸められているのが屈辱だった。  そんなに丸めないとダメか?  オレの身長・・・。    睨んでやったら、ソイツは驚いたように目を丸くした。    今までお前の知ってる教師は怯えていたのかもしれん。  怯えてもムリはない。  でも、オレは違う。  オレはお前なんぞにひびらない。  残念だな、今までのお前の人生にはオレがいなかったから、脅せばどうにかなったのかも知れないが、今日からは違う。  真っ黒なソイツの目を真っ直ぐに見つめた。  光を吸い込むような、飢えたような目は「普通」じゃなかった。  こんな穴みたいな目みたことなかった。     でもオレは絶対に引かない。  「座れ」  オレは言った。  ソイツは口元を歪めた。  笑っているのだとわかるのに時間がかかった。  ただ、馬鹿にした笑いではないことはわかった。  何故なら、あまりにも下手くそな笑顔だったからだ。  むしろさらに凶暴さが増した。  わらったことがないのかもしれん。  ソイツは本当に何気にオレの顔に触れた。  オレはゾっとした。  何故なら、全く反応出来なかったからだ。   このオレが。  コイツ、動作が読めない。  ヤバいと思ったが、無表情を貫く。    睨みつけたままだ。    昔、山で、野犬と出会った時を思い出す。    怯えたら襲って来るのだ。  腕を噛まれ、そこで怯まず、腕ごと地面に野犬を叩きつけて退治した。  怯えてはいけない。  指はそっとオレの頬に触れただけだった。    穴みたいに真っ黒な目はが目の前にあった。  覗き込まれている。  何にもない目。  光を吸い込むような。    「座れ」  オレはもう一度言った。  ソイツの指がピクンと震えた。    オレの身体に緊張が走る。  呼吸を長く深くとる。  だけど意外にも、ソイツはまた唇を歪めただけだった。  笑ってるのか?  多分。  また指がそっと顎を撫でて、離れた。  ソイツのやたらと近づけられていた顔が離れた。  そして、オレに大きな覆い被さるようだった身体もゆっくりと離れていく。  そして、不思議な位音を立てず、席に戻って行った。  まるで、前から座っていたかのようにソイツは席に座っていた。  しかも偉そうに腕ごとを組みながらではあるが、教壇に立つオレを見てはいた。  オレは黒板に向かうふりをして、こっそりため息をついた。   なんとかなったらしい。  「じゃあ、続きから行くぞ」   オレは漢文の訳について説明し始めた。  

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