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ピュア 第2話

 オレは元々教師ではない。  免許ならある。  オレの本来の仕事はライターだ。    そういうと聞こえがいいが、オレはもっぱら金持ち社長のゴーストライターをやっているわけ。  ある程度成功したら、おっさん達は夢を見る。   自分達をモデルにした映画とかが出来ないか、なんて。  自分達の人生を描いた本がベストセラーにならないか、なんて。  そこで、自叙伝なんて書きたくなるのだ。  でも、金もうけはいくら上手くても、だいたいが文章力はイマイチ。てかつまらない文章。  ましてや感動的な物語など・・・。  そこで、オレかおっさん達に代わって書く。  ゴーストライターだ。  その奇妙な界隈では売れっ子だ。   何故なら、オレは読み手ではなく、書き手となっているおっさん達がこう書いて欲しいように書くからだ。    もちろん、そんな本売れるわけがない。  自主出版と言われるまあ、買い取りの本だ。  おっさん達は作った本を喜んで、あちこちに配って回る。  もしかしたら一人か二人位は最後まで読むかも知れないが、大体は質問された時のために斜め読みして二度とは読まない、そんな本をオレは書いている。  でもいいのだ。  オレはおっさん達のために書いている。  おっさん達は自分についての本を何度も何度も繰り返し読むだろう。  一人でも熱心な読者がいたなら、その本はもうそれで完璧じゃないか?  オレはそう思っている。  おっさん達の口コミで、意外と仕事はある。  紹介文だったり、パンフレットの社長のお言葉だったり、まあ、そんな隙間商売だ。  でも生活が不安定なので、片手間で大学の先輩の経営する予備校で講師もやってる。  なのに何故、今学校の教師なのかというと、頼まれたのだ。  書いてやったおっさん達の一人が学校の偉いさんで、私学のあるクラスの授業だけ、週何回か持ってほしい、と。  理由は教師の心が壊れてしまったからだそうだ。  そのクラスの授業だけは無理だと。  問題のある生徒がいて、その生徒のターゲットにされてしまったらしい。  色々事情があって、その生徒を辞めさせたりは出来ないらしいし、教師には非がないし、誰も代わりになりたくないらしい。  「その生徒のことは放っておけばいいから、予備校で教えているみたいに教えてくれればいいから」  そう言われていたのだけど。  「1ヶ月以内に打開策をとるからその間だけ」そう言う約束で、週に何コマ教えるだけにしてはかなり結構なお金を頂いてしまった。  どうせ予備校は夕方からだし、毎日教えているわけでもない。  ひと月だけならと思って引き受けた。  本業が減る時期なのだ。     意外とシーズンがある。  決算期前などは、会社全体が忙しいのか、おっさん達も自分を称える本を作るのを諦めるのだ。    ちょうどいい時期のバイトだった。  「ヤバい生徒は絶対に無視する」  そしてひと月、決められた範囲まで古典を教える。  それで終わり。   簡単だ。    しかし、1日目からオレはやってしまった。  絶対に無視しなきゃいけないヤツに構ってしまった。  大体、あんな高校生いるのか!!  190センチ、100キロはあるぞ。      前の教師もアイツに何か余計なことを言って、心の底から怯えて泣かされるハメになったらしい。  放っておくこと。  どういう事情か知らないが、そういうことになっているらしい。   大抵学校に来ないから大丈夫、とも言われていた。  出席さえマトモにしていないらしい。  でも、たまたまオレの初日には来ていた。  授業が始まってすぐ、ソイツはフラリと立ち上がってどこかへいこうとした。  もちろんオレに何の断りもなく。  ふざけんな。  オレはな、引き受けた以上、真面目にやるんだよ。  オレの授業はな、面白くて分かりやすいんだよ。    生徒が楽しめるようにするんだよ。  オレが文章を書く時はおっさん達がそう書いてくれたら嬉しいと思う文章を一生懸命考えて本を書く。  たとえその当人以外にはクソでしかない本だとしても、だ。  オレは仕事に真剣なんだよ、やる以上は。  オレが一コマ教える時は、そこにいる奴らが楽しめて分かやすいように一生懸命やってるんだよ。  受けてみて面白くないならいい。  でもな、受ける前からいなくなるってのはどういうことだ。  オレの仕事を馬鹿にするな。   お前がどれだけ偉い奴のご子息様か知らないけどな。  むかついちゃったわけだ。  で、オレは注意しちゃったわけだ。  絶対に放っておくように言われてたのに。  前に注意した教師は、何されたのか知らないけど追い詰められてこの教室に入ることさえ出来なくなってしまったのに、だ。  だから、オレが代わりに来るはめになったのに、だ。  だけど、意外にも今日、アイツはまたいてオレの授業をまじめに聞いていた。  多分、他の誰よりも。  ただし、聞くだけだ。  ノートを開きもしてない。  腕を組み、長すぎる脚を投げ出し、ソイツはオレをじっと見つめ続けていた。  ずっと、ずっと。        

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