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ピュア 第4話
ソイツは丁巻かれた世界地図と、紙袋を丁寧に棚に置いた。
そして、ゆっくりとオレに近づいてくる。
オレは教科書を放り投げた。
構える。
腰を落として半身をきり、備える。
部屋が狭い。
狭すぎる。
これはオレには分が悪い。
棚に挟まれた狭い部屋は、人一人しか通れる程の幅しかなく、オレは行き止まりに追い詰められたも同然だ。
すり抜けるためのスペースすらない。
体格で30センチ近くの差がある、体重なら多分40キロ近い差がある。
攻撃は普通に当たっても効かないだろう。
ここまで体格差があると、残念だけど。
目潰し、金的、というのが正しい選択だが。
目潰しなんて流石に使えないし、第一身長差があるから届かない。
・・・金的、か。
つまり股間を狙う。
一応教師だからな、そういうことはしたくなかったけど。
コイツ、本当に強い。
わかる。
コイツがオレをどこまで痛めつける予定なのか知らないが、それに付き合える程オレはお人好しじゃないし、そこまでの報酬は貰ってないんた。
騙され閉じ込められてしまう程、確かにオレは馬鹿だ。
でもな、黙ってヤラレてやる程は優しくないんだよクソガキ!!
オレは拳を固めた。
構えるオレを見て、アイツは唇を歪めた。
笑ってる。
笑ってやがる。
ふざけんな。
オレは先をとって、一気に近づき、前蹴りで股間を潰してやろうと思った。
ゆらり
アイツが揺らいだ。
それは奇妙な感覚だった。
先に動けるはずだったのに。
オレの方がアイツに近づくはずだったのに。
オレは一気に飛び込み、前蹴りを突き刺していたはずだったのに。
動くオレの代わりに、アイツがのんびり動いた。
アイツはいとも簡単にオレの両肩を掴んでいた。
なんでだ。
動きは見えた。
なのに何でこんな簡単に掴まれてる。
両手はがっつりと肩に食い込んでいた。
凄い力だ。
しくった。
掴まれてたら・・・この体格差では・・・やられる・・・。
真っ黒な目がオレを見下ろす。
喰われる、そう思った。
まるでホラー映画のワンシーン。
調子に乗った馬鹿が、化け物に頭から齧られるのだ。
ああ、調子に乗った。
相手の実力を見誤ったし、油断した。
肩に食い込んだ指に苦痛の呻き声がでた。
ああ、仕方ない情けなくも、叫んで助けを求めるしか・・・助けが来るまでどれだけヤラレるか・・・。
死ぬよりマシだ。
叫ぼうとした時、肩に食い込んだ指がほどけた。
そっと抱きしめられた。
「痛かったか?・・・すまねぇ。焦っちまった」
低い声がした。
アイツの声なのか。
何故だかわからないけど、子供みたいに胸の中に抱き込まれている。
「怖がらないでくれ」
囁かれる重低音。
コイツ喋べれるんだな、当たり前だけど。
思わず見上げた。
すぐ近くに顔があった。
真っ黒な目。
そして、歪んだ口元。
整っているだけに凄みがある。
怖い。
オレ殺されるんじゃないか。
でも、口元がひくついていた。
・・・もしかして笑おうとしてる?
「怖がらないでくれ・・・お願いだ」
声だけは奇妙なほどの必死さを伝えてくる。
強く抱きしめられ・・・てか、潰され・・・。
ぐえっ
オレは変な声を出した。
みしっ
肋骨が軋んだ。
「ごめん・・・」
慌てて緩められる。
オレはむせた。
背中を撫でられる。
オレはわけかわからない。 なんた、何なんだコイツは。
殺そうと思ったら何時でもオレを殺せるのに、何してんだコイツは。
何がしたいんだ。
ゴホゴホと咳き込む。
顔を覗き込まれた。
無表情なのが怖い。
デカい手が頬を挟む。
「ごめん・・・」
声は低いけど、その抑揚は少年のものだ。
真っ黒な目が怖い。
凶悪な相貌と少年の声のアンバランスさが、何が起こっているのかわからなくする。
でも思いがけず優しく頬を撫でられた。
その心地よさに混乱の中、思わず目を閉じた。
何が起こってるのかわからない。
彼女がいない25年を終えるのかと思ったのに、肋折られかけて、謝られてる。
何なのコイツ。
目を閉じた時、アイツが息を飲んだのがわかった。
「・・・悪い」
また低く耳許で声がした。
めちゃくちゃ響く低音だ。
今度は何を謝る・・・。
優しく顎を上げられ、柔らかなモノで口を塞がれた。
何?
目を見開いた時には、後頭部をデカい手で掴まれて、分厚い何かが驚きで緩んだ口元から口の中に侵入していた。
何かじゃねぇよ。
舌だよ。
コイツ、舌入れてやがる。
見開いたオレの目の前には、目を閉じ、眉をひそめたソイツの顔があった。
無表情ではなかった。
何、気持ちよさそうにしてんだ、このガキ。
気持ちいいって・・・。
それどころじゃねぇ!!
何してんだ、コイツ。
舌がオレの舌を引きずり出す。
逃げようとしても、絡め取られ、好きなように貪られる。
何されてんのかわかねぇ。
なんで舌噛まれて、吸われてんの。
何なのこれ。
オレ。
オレ。
・・・・・・キスだってしたことなかったのに。
男子校育ち、体育会系バリバリ。
大学では女の子が眩しすぎて、声もかけれず、やっと女の子達と話せるようになった頃には、経験のないせいで気後れして、深いつきあいにどうしても踏み出せなくて・・・。
仕事は予備校の高校生達とか、本書くオッサン達しかいないので、なんかなんか、そういう機会がなかったんだよ。
今も通う道場に女の子なんていないし。
それでも、なんとかしなきゃな、紹介して貰おうかな、でも道場の先輩の紹介だけは絶対やめておかなきゃいけないよな、紹介してもらうなら奥手なオレと同じ位、奥手な女の子だったらいいな、怖くないし。
ちょっとずつ、距離つめて恋人になれたらいいな、なんて思ってたんだ。
何で、出会いなんてないはずの仕事先の男子校で、190センチもある男子高校生にキスされてんの?
口蓋をなめられ、歯列を舐められた。
強靭な舌は女の子のものとは程遠い、男以外のものではなかった。
オレの唇を挟む唇も分厚い男のモノだ。
オレは必死で身体を引き離そうとした。
びくともしない。
胸を殴りつける。
壁を叩いているように、反応がない。
舌を吸われまた、甘く噛まれた。
「ううっ」
思わず声が漏れた。
・・・気持ち良くて。
有り得ない。
有り得ない。
離れろ!!
離れろ!!
オレは顔を殴りつけようとした。
その手を掴まれた。
零れる唾液を飲んでしまう。
舌はオレの舌をフェラでもするように動き吸うから・・・オレの身体が熱くなっていた。
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