25 / 71
ピュア 第11話
「試してみてだめだったら、オレに関わらないでくれるのか?」
なんかオレ、頭クラクラしてきた。
コイツ断るのも大変だし。
コイツのバック凄そうだし。
セックスしないなら適当に相手して、断ったら早くないか?
確かに約束した通り、オレが嫌がることはこの部屋に入ってからはしてないし。
「オレはあんたには嘘をつかない」
その声は信じられる気がした。
「じゃあ一週間」
オレは言った。
「ダメだ。それじゃ何も分かり合えない」
アイツが拒否る。
「じゃあひと月これがダメなら、もう諦めろ」
オレは言った。
「・・・分かった」
アイツは本当に嬉しそうに言った。
「じゃあ、今日はこれで帰れ。オレはもう寝るんだ」
オレはアイツの胸を押した。
近すぎる。
ひと月適当にあしらって、断ろう。
そう決めた。
顔を見上げたら、めちゃくちゃ笑っているアイツの顔があった。
本当の笑顔はいいのは知っていた。
でも、こんなにもいい笑顔をするとは思わなかった。
光がないような目が輝いていた。
嬉しさが全身からこぼれ出していた。
「オレの恋人だ。俺の!!」
抱きしめられた。
その手がそんなにも震えていたから、「触るな」と怒鳴り損なった。
「あんた、オレの恋人だ」
声も震えていた。
いや、お試しの、だぞ。
「大事にする。絶対に大切にする」
アイツが叫ぶ。
いや、断る予定・・・。
何、コレ、オレの中に溜まっていく罪悪感。
「あの、俺、寝たいんだけど。疲れてて明日仕事休みにしてる位で・・・」
とにかく帰ってもらいたい一心で言う。
「解った。休むんだな?」
アイツは頷いた。
次の瞬間あっという間に服を剥かれていた。
なんで?なんで?
「セックスはしないって・・・」
オレは抗議する。
必死で抑えていたパンツも抜かれた。
「お前は指一本動かさなくていい。オレが綺麗に洗って、着替えさえて、寝かしてやる」
アイツが上機嫌でとんでもないことを言い始めた。
「大事にする。するからな」
オレはそう囁かれながら、服をぜんぶむかれて、だきあげられていた。
「全身綺麗に洗ってやる・・・この手でな、途中でお前が気持ち良くなってお願いしてきたら・・・ご奉仕してやる。奉仕だ。セックスじゃない」
獣が甘く囁いた。
唇を舐める舌が見えた。
獲物を前にした獣。
オレはオレは嵌められたことに気づいた。
セックスしないとアイツは言った。
オレが嫌がることはしないと言った。
でも、オレをそういう気にさせるのはコイツには簡単なんだってことをオレは今日、その身でしったはずだったのに。
「大丈夫だ。気持ちいいだけだ。指一本動かさなくていい。朝まで抱きしめて寝てやる。オレの良さを知ってくれ」
アイツは笑顔で風呂に向かう。
「もういい、止めてくれ、風呂なんていい!!」
オレは喚く。
「風呂だけじゃない、飯だって作ってやる。オレは料理も上手いぞ」
アイツはもう何も聞いてくれない。
上機嫌だ。
「ひと月後が楽しみだ、お前が完全にオレを受け入れてくれるのがな」
アイツは笑う。
見惚れる程の笑顔だけど、そんなのどうでもいい。
「好きだ。本当に好きだ」
囁かれて赤くなるけど、オレたち出会ったばかりだぞ。
「オレ以外の男が『何もしないから、試すだけでいいから』って言っても信用するなよ、お前チョロすぎる」
心配そうに言う口はどの口だ。
風呂場に入り、勝手知ったるようにシャワーのお湯を出し、降り注ぐ暖かいお湯の中に横たえられる。
「何でオレの家のことわかってるんだよ!!」
オレは恐怖を感じて叫ぶ。
風呂の湯沸かし器の場所は、住人じゃなければわからないところにあるのに。
「マンションの名前がわかったから、この隣りの部屋を借りさせたからな。間取りは一緒だ」
怖いセリフを聞かされた。
何より、隣りは住人がいたのだ。
今日の朝まで。
コイツ何、何なの。
オレは怯えてふるえた。
「恋人でお隣さんだ。これからは」
アイツは笑った。
ボディソープを手で泡立てて、その手が近づいてくる。
「やっぱり無し、お試しなし!!」
オレは叫んだ。
「約束は約束だ。これからひと月。オレについて知ってくれ」
甘い低い声。
泡だらけの手が伸ばされる。
「気持ち良くしてやる」
指は甘く、オレに触れるだろうことを、オレは知ってて、怯えながら、どこかでその指をほしがる。
獣にオレは捕まったらしい。
END
ともだちにシェアしよう!