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告白までの距離 第3話

 本気で悩んでた。  死ぬ程悩んでた。  生きるべきか死ぬべきか。  というよりも、  生き恥をさらし、自殺しなければならないとしても、だ。  やらなければならないことはある。  命をかけるべきことがある。  オレの大好きなヒロインマチルダは、いつも殺人者にたった一人で立ち向かう。  「私はあんたを殺す。・・・そうする必要があるからよ」  マチルダはそう言う。  決め台詞だ。  マチルダは刑事でありながら、処刑人なのだ。  かっこいいんだ    オレもマチルダのように言うべきた。  「オレはリスクを侵す。そうする必要があるからだ」と。  オレは覚悟を決めた。  アイツの乳首を見るためならば、命をかける価値はある。   乳首だぞ。  オレが妄想の中で毎晩毎晩めちゃくちゃ吸ってるソコを、本物の乳首に変えられるチャンスなんだぞ。    オレは水泳の授業に出ることにした。  実は色んな理由をつけて水泳の授業はサボってきた。  泳げないからだ。  泳げないからと言って何一つ困らないのに、そんな授業を受けるなど。  バカバカしい。  水の中に顔をつけたり出来ないのが何が悪い。   そんなことで笑われる必要なとない。  レポートなどいくらでも書いてやる。    成績上位であることはこの有名私立進学校では有利に働き、去年は何の問題もなく、水泳は見学できた。  しかし、だ。    アイツの乳首を近くで見れる機会なのだ。  競泳用の水着一枚のアイツをだな、近くで見れるのだ。    これは、だ。  これは、だ。  水泳の授業に出るしかあるまい?  しかし、だ。     それにはリスクがある。  とても危険なリスクが。  オレも競泳用の水着なのだ。    オレがアイツの乳首やら、可愛い尻が薄い水着に包まれてるのみたら。  オレは勃起するだろう。  なんなら射精するかもしれない。  隠している恋心どころじゃない。  とんでもないものが水着から突き出してしまう。  恋も性器も隠しておきたいわけだ。  だが、アイツの乳首を諦めるわけにはいかなかった。  もう一度言う。  「そうする必要があるから」だ。  ただ思ってるのが恋じゃない。  オレだって本当の彼が欲しい。  でも、だ。    彼にはオレはいらない。  オレが男で彼の性的指向の対象外だとか言うのを別にしても、どう考えても彼がオレを欲しがるわけがない。  オレは他人との口のききかたも知らない。  どうやったら彼を喜ばせたり出来るかもわからない。  彼を楽しくさせてもやれない。  妄想でさえ、彼に話しかけられないのだ。  ひたすらセックスするだけなのだ。  妄想の中でさえ、優しい気持ちになれるのは寝ている彼を抱きしめている時だけなのだ。  彼が女の子で、万が一オレをちょっとした位は気にしてくれたとしても、オレは絶対に近付かない。    オレは知ってる。  愛ってのはな、相手の幸せを最優先にすることだ。    マチルダだってシリーズの第3作で恋を諦めたのだ。  マチルダの最初で最後の恋を。  「誰かがあなたを幸せにしてくれますように」   マチルダは愛する人に背を向け、立ち去りながら小さく呟くのだ。  涙さえ流さずに。  オレじゃない。  それくらいは分かってる。  彼にはオレじゃない。  彼を笑わせて、幸せにできる誰かだ。  オレには何もしてやれない。  してもらっても迷惑だろう。  存在も知らない人間に思われるだけでも不快だろう。    だからこそ、オレは彼を自分の中で組み立てる行為すら、絶対に彼が不快にならないようにやっているんだ。  決して、クラスや教室、図書館等、オレと彼が一緒にいても違和感のない場所以外では彼といない。  見るのもじっとりはみない。  一瞬で全ての映像を脳に焼き付けろ。  見ていることを悟られるな。  オレは見ることしか出来ないからこそ、見ることで彼を不快になどさせないと誓ったのだ。    ストーカーや変質者なんて存在になって彼をくるしめることなど出来るわけかない。  笑わせられないなら、せめて、彼を決して苦しめるな。  でも、だからこそ、彼の乳首を見れることを諦めるわけにはいかなかった。  乳首だぞ。  鎖骨だそ。  へそだぞ。  妄想の中で毎日舐めてるそこをリアルにしたかった。  オレは苦悩のすえ、打開策を考えた。  一つは今まで使ってきた技の応用だ。  教室で彼を見ているだけで大変なことになっちゃうことはある。  その時は数学の問題をとくことにしている。  下がった血を頭に上げるのだ。  おかげで数学は学年トップが目の前まで来ている。  理数系に進学を進められているくらいだ。  行かないけどね。  オレは英文科に行くの。  決めてるの。  マチルダシリーズが好きすぎて、原文で読んで思った。  訳によってこれほど変わるとは・・・ってヤツだ。  マチルダのあの台詞もあの台詞も、訳する人達はマチルダがマチルダらしく日本語を話すために苦労していた。  人気シリーズではないので、訳者がシリーズ途中で変わってしまっているからこそわかることだった。    オレも、マチルダに喋らせたい。  もっと、マチルダがマチルダらしくあれるように。  なので、そういうのに関係ありそうなとこに進学することにしたのだ。  とにかく、だ。    ムラっと来たら数学の問題をとく。  一瞬で全ての画像を記憶して、脳の中のファイルに保管し、じっくり見るのは家に帰ってからにする。  これでやり抜くしかなかった。  自信はない。  水着姿だ。  一瞬でアウトになりそうだ。  彼に嫌われるどころか、クラス全員に自分のをコンチニワさせてしまう伝説をつくれそうだ。     リスクは高い。     でも、そうしなければならないのだ。  彼の乳首のために。      

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