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告白までの距離 第5話
逃げようともがくオレ、怯えてるのだと思って抱きしめる彼。
やめて。
やめて。
お前の胸に顔があたって・・・。
オレは天国のような地獄にいた。
オレは伝説の男になる。
なってしまう・・・。
もうダメだと思った。
もう無理って思った。
お願いって思った。
必死で耐えた。
必死で頭に血を戻そうとした。
下の方ではなく上に。
でも、顔を振り彼の胸から逃げようとした時、彼の乳首にオレの唇が当たった。
一瞬だけど当たった。
「!!!!!!!」
オレは完全にいかれた。
なんか叫んだ。
怒鳴った。
そして・・・オレは伝説になった。
オレは鼻血を吹き出した。
噴水みたいに吹き出した。
顔を振った時に彼の頭に鼻をぶつけたせいかもしれない。
頭に血を戻そうと必死になってたからかもしれない。
彼の前でコンチニワしてしまうかもしれないことに真っ赤になっていたせいかもしれない。
唇に乳首がふれちゃって、しかもちょっと舌も当たってしまったことに興奮しすぎたせいかもしれない。
オレは足のつくプールで溺れ、オマケにプールの水面をホラー映画のように赤く染めた男として伝説になった。
ありがたいことに、鼻血のおかげで頭に血がいったのか・・・あちらの方はなんとか、なんとか、数人がかりてプールから上げられた時には落ち着いてた。
セーフ!!
セーフだよ!!
オレは先生に担がれて保健室につれていかれ、先生は二度と水泳の授業にはでなくていい、と何度もいってくれた。
オレだってもう二度と出たくないよ!!
だが、色々と、あったが・・・結果としては悪く、悪くなかったかもしれん。
彼の胸に抱かれる感触やら、あの、あの、唇と舌が触れたあの、ピンクの乳首の感触やら。
残念ながらプールの塩素の味だったけども、だ。
オレの妄想は新たな領域に入ったことは間違いない。
オレは保健室のベッドの上でこの上もなく満足していた。
失ったものもあるが、得たものは大きい。
頭がクラクラするから、少し休んだら・・・今日は図書館に寄らずに家に帰って、オナニーしよう。
オレは目を閉じて、眠りについた。
目が覚めたら彼がいたので、これが現実なのだとわかった。
夢の中では、セックス以外はなにも出来ないからだ。
思いつくことさえできない。
話がをしてるオレと彼とか、オレを見つめてくれる彼とか。
せいぜい眠る彼を抱きしめるくらいだ。
だから、保健室のベッドの傍らの椅子に、彼が座っているのを見て思った。
現実だと。
オレを心配そうに優しく見つめる彼など、オレには想像できないからだ。
オレは慌てて飛び起きる。
でも起き上がったところで・・・どうすればいいんだ。
オレはオロオロと彼を見た。
彼を盗み見見る以外で見たことがなかったから、慌てて目を反らしてしまう。
盗み見見る目的がなければ、見ることさえ出来ない。
起き上がったのはいいものの、俯き布団を握りしめてしまう。
どうすればいい。
どうすればいい。
「大丈夫?・・・僕がいきなり話しかけたから、驚いて水に落ちちゃったんだよね」
優しい声が聞こえる。
嘘だろ。
オレに向かって話しかけてる。
わからない。
なんて言えばいいんだ。
わからない。
わからない。
オレは布団を握りしめて、その手を見つめることしか出来ない。
「ごめん。・・・寝てたのに。たた、僕、謝りたかっただけなんだ・・・僕のせいでこんな酷い目に・・・」
彼の声が消え入りそうだ。
内気な彼は自分から話しかけたりしない。
ましてや、親しくない人間になど。
知ってる。
彼がどれほどの決意でオレに話しかけてきたかを。
彼は何も悪くない。
オレが彼の乳首がみたいと言うスケベ心でしたことだ。
それにオレ的に素晴らしい結果になった。
彼はオレを軽蔑して罵ってもいいくらいなのに、オレにそんなにすまなそうにしなくてもいい。
ど、どうすればいいんだ。
どうすれば。
だらだらと冷たい汗が緊張感に耐えられず、吹き出してきた。
「酷い汗だ!!先生を・・・」
彼が慌てる。
立ち上がり・・・行ってしまう。
行ってしまったなら彼は今回の件を気に病み、オレの伝説で学校中が笑う度、彼はその胸を痛めるだろう。
オレは目的を果たしたし、違う伝説になるのを食い止めたので満足しているのに。
いけない。
いけない。
彼を苦しめてはいけない。
「ま、待って・・・」
オレは震える声で彼を呼び止めた。
クソ。
どうすればいい、何を言えばいい。
彼が振り返る。
優しい目がオレを見てる。
いつも伏せ目がちな、本を読む時は夢見がちに輝くオレの大好きな目だ。
オレも彼を見てる。
目と目が合うなんて、想定したこともなかった。
しかもこれは、目を反らさなくてもいいヤツだ。
心臓がバクバクしてる。
死ぬんじゃないか。
口の中が異様に乾いてる。
声が出ない。
声が出ない。
でもオレはやっとのことで言った。
「プールサイドでオレに話があるって・・・何?」
やっと言えたのがソレだった。
でも、ソレがやっとだったのだ。
「いつも・・・図書館にいるだろ、君。いつも僕と同じで最後まで」
彼がオレを見て喋っている。
何コレ。
しかも二人でベッドに腰掛けて。
夢か?
いや、夢なら言葉もなくオレはこのベッドの上て彼を組み敷いて喘がせているはずだからそれはない。
最近は背後からするのがお気に入りだ。
いわゆる寝バックというヤツだ。
この妄想はエロくていい。
ヤバい。
勃起しちゃう。
話に集中しなければ。
しかし、彼がオレを認識していたのは驚きだった。
確かに何度か高い所の本を取ってやったことはあるけど。
一言も口さえきいてないのに。
「だから、だから・・・駅まで一緒に帰ってくれないかなって思って・・・」
彼の言葉にオレは驚きを隠せない。
一緒に帰るだと。
一緒に帰るだと!!
何、そのイベント。
何、それ!!
何、その、その、友達とか、恋人とかでないとしないような凄い行為。
そんなこと想像さえしたことなかった。
驚くオレに彼は、おどおどと言葉を途切らせる。
「だ、だよね。いきなり、親しくもないのにこんなこと頼んだらダメだよね・・・」
俯く。
「理由は?」
オレは言う。
彼はオレの声に顔を上げる。
困っているのだ何かわからないが。
良く知りもしないクラスメイトに頼まなければならないほどに。
内気で人見知りな彼が。
「理由は何だ?」
オレは聞く。
もっと優しく聞きたいのに、優しく話す方法なんか知らない。
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