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告白までの距離 第11話

 入ってしまえばこっちのものだった。  男はよじ登り入ろうとするが身体がつかえて入れない。  オレは生まれて初めて、ガリガリにやせてることに感謝した。  痩せてて背か高くなければ、排気口にとどかなかったし、入れなかった。  オレはオレに生まれてきたことを心の底から感謝した。  暗い排気ダクトがどこへ続いているのかも分からなかったし、カサカサいう音や、チューチューいう声に死にたくなった。  行き止まりになった。外の風を感じる。  網の目になっているそこから外の光が見えた。  正しくはこの建物から出ている光だ。  この施設は廃墟同然だけど、部屋に灯りはあった。  何らかの形であの男はここに電気をひいているのだ。  今回か初めてではないのかもしれない。  誰かを攫って・・・彼みたいな可愛い少年を攫って・・・ここで酷いことをしていたのかもしれない。  何にしても、灯りはありがたかった。   外についているせいか、ボロボロに排気口のカバーは錆びていた。  これなら破れる。  思い切り殴った。  カバーは簡単に外れ落ちた。  思いの外大きな音がしてしまった。  遠くから男の声がした。  男はオレがこの建物から出て来るのを探してぐるぐる回っているのだろう。  まだここには来てない。  早く脱出・・・そして、オレは気付く。  ここが3階であることに。  でも、出口はここしかないのだ。  男がこちら側に来る前に飛び降りないと。    でも、脚でも折れたならアウトだ。  でも・・・考える時間などなかった。  オレは飛び降りた。  脚は折れなかった。  折れたのは腕だ。  肩から落ちたのだ。  多分鎖骨も折れてる。  音を聞きつけて男がくるのはわかっていたからオレは逃げた。  そして、道がある方ではなく、山の中へ逃げた。  男はおそらくオレが道路を走り、人家や車に助けを求めに行くと考えると思ったからだ。  まさか、何もない山の中へ逃げるとは思わないだろう。  それに、道を逃げたものは追いやすい。  だけど、道のない山の中へ逃げれば、何一つ人の作り出したもののない山の中へ逃げたならば、追うことなど出来ないはずだった。  夜の山の中で生き物を追えるのは・・・優秀なハンターだけだ。  あの男は違うはずだ。   ただの変態だ。    凶暴なだけの。    ただそれはオレに助けがないことを意味していた。    道をはずれてしまえば、自分も戻れなくなることを意味していた。  この山は、特別高くはないけれど、遭難した例がないわけではないことをオレは知ってた。  山を舐めてはいけないのだ。  だけど、それはあの男にとってもそうだ。  あの男が自分も遭難する危険を冒してまでオレを追ってくるとはおもわなかった。  オレは山を登ることを目指した。   降りる方が遭難すると聞いたことがあった。  山で迷ったなら頂上を目指すべきだと。  フラフラになったまま歩く。  足元は見えない。  このままじっとしておくべきなのかもしれないでも、少しでも男からとおざからなけばならなかった。  何度も転んだ。    ゲロの臭い。    土の匂い。  殴られた頭がいたむ。   折れた腕が痛む。  肋骨も痛む。  脚も痛い。  もう、何もかも諦めて眠ってしまおうか、そうも思った。  「立ちなさい。歩きなさい」  マチルダの声がした。  でも、マチルダ、もうムリなんだ。  頑張れないんだ。  オレはそんなに強くないんだ。  「もう、あの子に会いたくないなら諦めなさい。あなたの体力が明日まで持つとは思えない」  マチルダは容赦ない。    彼。  彼に会いたい。  「あなたはやるべきことはした。今度はしたいことのために頑張りなさい」  マチルダは言う。  オレのしたいこと?  彼に会いたい。  「なら頑張りなさい」  マチルダ、本当に厳しいね、君は。  オレは歩き続ける。  登っているのだと思える方へ、手探りのまま。    何度も倒れそうになった。  その度マチルダが叱る。  「あの子に会いたいんでしょ」  うん。   でも、マチルダ、何故君なの?  何故彼が出てきてくれないの?  これはオレの想像なんだろ?  「それ、失礼じゃない?側についててあげてるのに私じゃ不満なの?」  そういうわけじゃないけど、君が大好きだけど、なんで彼は想像には出てきてくれないの?  「あなたが彼について知らないからよ。見てただけだしょ。想像できるほど彼について知らないでしょ」  そうだね。  知らない。    「私については知ってる。でしょ?」  小学生から君の本を読んでるからね。  君の言葉はすべて知ってる。    君の思いもすべて知ってる。  「彼に想像でも会いたかったら、彼について知りなさい。そしたら出て来てくれるわ」  でも、マチルダ、オレは彼に相応しくないんだ。   見ている以外出来ないんだ。  君だって、恋を諦めたじゃないか。  「私と同じだなんて随分自惚れてるわね。それに私は相手の全てを理解した上でそうしたの。何も知ろうともしてない坊やと一緒にしないでよね。・・・それに、あなたは私と違う。処刑人なんかじゃないの」  嫌われるかもしれない。  そんなの辛すぎる。  「嫌われなさい。相手のことを何一つ知らないよりかは嫌われる方がましよ」  厳しいね、マチルダ。  「そう言って欲しかったんでしょ。何のために歩いてるの?会いたいからでしょ?もう一度」  そうだよ、マチルダ。  オレは会いたい。    彼に会いたい。  死ぬ前に会いたい。  見てただけの今まで全ての時間より、言葉を初めて交わした今日のわずかな時間の方が彼を知れた。   彼を知りたい。  「命の恩人だから、キス位頼めばしてくれるかもよ」  マチルダが笑う。  いや、キスは悪いからいい。  キスは好きな人とするものだ。  頼めるなら、おかず用に一度ヌードを見せてもらいたい。  今日触りはしたけど見てないから。  「レディに向かって何言ってるの。変態」  マチルダごめん。    「頑張ったわね」  何、マチルダ?  「もう大丈夫」  マチルダの声が終わるのと、山小屋が見えたのは同時だった。

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