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籠の中の鳥~鳥籠 第2話

 与えられるものは全て優しい。   指の動きはあくまで柔らかくやさしくいやらしい。  かき混ぜるように広げられながら、そこを執拗に擦られる。  「ああっ・・・も、いい、いいからぁ・・・」  泣きながら止めて欲しいと懇願した。  指が名残惜しそうに止まる。    そう、止めてくれるのだ。  でも。  「ここは嫌?じゃあ違うところにしようか?」  幼なじみは本当に優しい声で言って、その長い指でもっと奥を抉るように触れるのだ。    「ああっ」  彼は白い喉を反らす。  さっきとはまた違う感覚につま先が丸まる。  しかも幼なじみは奥から、出し入れするように指を動かすから、結局、止めてもらった場所まで擦られて・・・。  「イクぅっ!!」  教え込まれた通りに叫ぶ。  触れられもしていない場所から迸らせてしまう。  泣いてしまう。  まだ余韻に震える身体さえ恐ろしくて。  この身体はどうなってしまったのか。  自慰さえ知らなかったこの身体は、今では幼なじみの指や舌で、際限なく快楽を得れるのだ。  そう、終わりなどないかのように。  「すごいね・・・今度は出さなくても、いこうね。中だけなら・・・出さなくてもずっとイけるから。ずっと、ずっとイきっぱななしになれる」  幼なじみは怖いことを言う。  「怖い・・・」  彼が泣く。  また身体を変えようとするのか。    もうこの身体は指を咥えられ、舐められ、吸われるだけで勃起するような身体にされているのだ。  指だ。    性器じゃない、指なのに。  幼なじみは抱きしめてくれる。  背中を撫でる指の優しさと甘さと、暖かい胸にすがりつく。  「わかった。今日はしないから。じゃあたくさんここを舐めてあげるからね」  優しく言われるそれは、また違う怖さを与えられることを意味している。  でも、知らない怖さよりは知ってる怖さの方が良くて、彼は頷くしかない。  でも、いずれ、幼なじみはそうする。  時間をかけてそうする。  自分が変えたいようにこの身体を変える。  そうしてきたように。  「じゃあ、四つん這いになって、お尻を持ち上げてね。ナメてあげるから」  優しく言われる言葉に従ってしまう。  自分からそうする。  真っ赤になって泣きながら。  恥ずかしいのに。  濡れた音が響き、濡れた熱いものがそこで蠢く。  また勃ちあがっていくのは、舐められはいない場所だ。     幼なじみは最近はそこにはほとんど触れない。  幼なじみは教え込もうとしているからだ。  後ろが気持ちいいことを。       実際・・・気持ちいい。  「気持ち・・・いい・・いい・・・ああっ」  涎をたらしながら、口走る。  そう言えと教え込まれたように。  柔らかな弾力ある舌で、穴をつつかれ、中まで舐められることの気持ち良さをもうとっくに知っている。  恥ずかしくてたまらないことが余計に気持ち良くさせることも。  接触を嫌い長年誰にも触れさせなかった身体はだからこそ、人との接触に敏感で感じすぎてしまうことも。  「ねぇ・・・もういい?」  熱い吐息を吐きかけられ囁かれる。    どういう意味かは分かってる。  だから、泣きながら首を振る。  気持ちいい気持ちいいと、喚きながらも。  「そう・・・」  そう答える幼なじみの声には落胆は見えない。  でも、舌は更に執拗さを増し始めた。  明日は日曜日だ。  幼なじみの部活もない。  このまま朝まで舐め続けられるだろう。  何度達しても、何度達しても。  嫌だと言う暇さえ与えられないで。    「ああっ!!」  彼はその舌にさけんでしまう。  こんな終わらない快楽の地獄よりも・・・それを受け入れた方が・・・そんな想いにとりつかれる。  そして、それか幼なじみの狙いなのだと分かってもいる。    「可愛がってあげる・・・出なくなってもここをずっと」  幼なじみは囁いた。     その声には優しさしかないのに。  彼は震えた。  怖さだけのためではなく。  時間の問題だと分かっていても・・・まだ彼は拒否していた。  そこに幼なじみの性器を挿入することだけは。  もう、そんなの、何の意味もなかったのだけども。  幼なじみは優しい。  散々泣かされ、喘がされ、叫ばさせられたけれど、動けなくなった彼を優しく風呂に入れて寝かせてくれる。  終わりさえすれば、その指は優しくだけで、淫らさはなくなり、これほどもないほど、慎重に触れられる。  身体を洗う行為も、髪を洗う指も、優しいだけで性的なものはなく、恥ずかしさを感じないように配慮されていることがわかる。  服を着せる時でさえ、最低限直接肌に触れないようにしてくれている。     「お休み」  そう言って抱きしめて眠る時さえ、布団や毛布でくるみ、抱きしめても決して触れないようにしてくれる。  終わりさえすれば、不必要に触らないよう配慮される。  それは優しく触れられる以上の優しさであることを彼は知っている。    「大好き。大好き。愛してる」  眠りにつくまで繰り返される言葉は決して触れられないところにある唇が囁くのだ。  大切にされている。  愛されている。   抱かれている時ではない時にこそそれを感じている。  あれほどセックスの時は何でも言わそうとするくせに、「愛してる」とは決して言わそうとはしないことからも、彼の気持ちを尊重していることがわかってる。  「オレも・・・好き」  小さい声で云えば、ふにゃふにゃに溶けてしまう、整った顔。  好き。    幼なじみが好き。  でも。     何故か怖くて。  そのわからない恐さが、彼を幼なじみのセックスに最後まで踏み切れさせずにいた。  挿入していないだけで・・・もうありとあらゆることをされているのだから無意味な気もしていたが。  口ですることも教え込まれ、指や舌で幼なじみのを愛撫することにもすっかり慣らされていたのだし。    彼の父親は海外赴任。  自分の母親は仕事が忙しいため、常に不在。    幼なじみの父親も不在がち。  なので彼と幼なじみは家こそふたつあるものの、一緒に暮らしているようなものだった。  秀才で優等生で、陸上選手の幼なじみ、そして、幼なじみ程優秀ではなくてもマジメで成績上位の彼。  親達は放っておくことをそれほど心配していなかった。  もともと、この二人は互いがいれば十分なのだし。  きちんと学校に行き、きちんと生活するだろう。  そう信用されていた。  それは間違いなかった。    ただ夜になれば淫らな行為を行っているだけで、成績も維持し、マジメに生活していた。  今までとなにも変わることなく。  二人で食事を作り、買い物し、掃除し、勉強し、ゲームし、テレビを見、その身体を貪りあう。  その行為に怯えはしても、彼は両親に隠れてそうすることに罪悪感はなかった。  幼なじみから離れることなど長年想像したこともなかったのだ。  幼なじみに距離をおかれたあの日まで。  自分の身体の一部のように思っていたのだ。  離れることが有り得ないことのように。  幼なじみを自分から自由にしようと決意したあの時の痛みほど辛かったものはない。    幼なじみが離れたいと望まない限りは。  一緒にいたい。  痛い程にそう思っていた。  一緒にいるために怖い想いをさせられるとしても・・・毎晩泣かされるとしても・・・離れられなかった。  誰よりも同じ時間を共有し、同じものを見て来たもうひとりの自分。  愛と言うにはあまりにも。  切り離せない程に癒着し繋がってしまっていた。  それが歪であることにさわからないほどに。    だからそれに気づかないかった。  だから、当たり前のことがわからなかった。  いや、わかっていたのに考えていなかった。  幼なじみがあまりにもセックスに手慣れていることの意味。  こんなにも自分を溺れさせてしまうことの意味。  自分以外の誰かについての可能性を。                  

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