41 / 71
籠の中の鳥~鳥籠 第3話
「今日は先に帰ってて。部活が終わった後、親父の知り合いに会わなきゃいけないんだ」
幼なじみがため息をつきながら言った。
いつも部活が終わるまで図書室で勉強して、一緒に帰るのだが、たまにこういうことはある。
部活のミーティング、委員会、試合の遠征、他校との共同練習。
幼なじみはそれ程熱心に部活をしているわけでもなく、顧問に頼まれて選手をやっているだけなのたが、それでもそれなりに真面目には活動しているので、まあ、一緒にいれないこともある。
それにたまに父親のアシスタントのようなこともしているらしい。
そういう時一人なのは慣れてるし、一人は嫌いじゃない。
幼なじみが帰ってくるのはわかっているからだ。
「じゃあ、オレが晩御飯つくる」
彼は言った。
「ごめんね」
笑顔で幼なじみは言った。
でも耳もとでこっそり続けられた言葉は淫らだった。
「早く帰るから。いっぱい舐めてあげるから。今日も沢山イってね」
とてもそんなことを言っているとは思えない程爽やかな笑顔で。
教室でそんなことを言われて、真っ赤になった。
幼なじみは彼が怒り出すより先に笑いながら離れていく。
「最低!!」
怒りながらも、彼は幼なじみの好物を作ろうと晩御飯のメニューを考えていた。
幼なじみはまた顔をふにゃふにゃにして笑ってくれるだろう。
あんなに崩れてしまうのは、自分の前だけなのを彼は知っていて、その笑顔が好きだった。
図書室で勉強してから・・・帰ろう。
スーパーによって晩ご飯の準備をしよう。
彼は幼なじみの笑顔を思って自
分も微笑んでいることには気付かなかった。
図書室で顔を上げると、机の向かい側の席からこちらを睨みつけている目に気づいた。
無遠慮に、怒りを持ってその目は彼を睨みつけていた。
綺麗な顔をした男子生徒。
手足の長さが目をひいた。
日に焼けた肌が金色に光る。
幼なじみと同じように。
運動部の子だ。
でも、知らない顔だ。
見たこともない。
学年章は同学年だが、この生徒は知らない。
おかしい。
小学校からの一貫校私立校だ。
同学年どころか、ほぼ全校生徒の顔位は知っているはずなのだ。
「 」
呼び捨てで名前を呼ばれた。
名字だ。
その声の悪意に怯える。
「話がしたいんだ。ちょっと来てくれるかな」
言葉は丁寧だけど、言葉は刺すように放たれていた。
彼は怯えた。
呼び出しというヤツか。
当然断る。
得体のしれないヤツにのこのこついていくほどバカじゃない。
「嫌だ。お前、大体、ここの生徒じゃないだろ」
自信はあった。
ソイツは目を丸くした。
彼の大人しげな様子から、強く言えばついてくるかと思ったのだろう。
それに、他校生だと見破られるとも思わなかったのだろう。
唇を歪めて笑った。
それでも、ソイツは綺麗な顔をしていた。
「 」
幼なじみの名前をソイツは口にした。
しかも、名字ではなく名前の方を。
彼以外は呼ぶことのない名前だ。
「話がしたいのは・・・アイツについてだって言ったら来るか?」
ソイツは意地悪く微笑む。
彼は・・・自分が行くしかないことがわかっていた。
彼はとぼとぼと歩いていた。
まだショックからは抜けられない。
それでも・・・スーパーにより買い物をしていた。
わからないわからないじゃないか。
まだ幼なじみから聞いてない。
一方的な話なんて、信じちゃだめだ。
幼なじみが帰って来たら話を聞くんだ。
買い物袋をぶらさげ、学校の鞄を持ち、トボトボ歩いていた。
しっかりしなきゃと顔を上げた先に、それが見えた。
幼なじみだ。
喫茶店で誰かとコーヒーを飲んでる。
思わず隠れてしまった。
隠れる必要なんかないのに。
隠れて、盗み見てしまう。
誰。
誰といるの?
さすがにアイツではなかった。
それはそのはずだ。
さっきまで一緒にいたのだから。
そこにいたのは20代半ばの青年だった。
背の高い幼なじみよりも背が高い、カッコいい青年だった。
おじさんの仕事の関係者なのだろう。
きっと。
きっと。
にこやかに幼なじみは話している。
青年も笑った。
何故か胸が痛んだ。
青年は指を伸ばし、幼なじみの唇を拭った。
何気なく、でも、セクシャルに。
幼なじみは肩をすくめた。
その唇にのこされたままの指をそっと握るようにして、自分の唇から遠ざけた。
微笑みながら青年に何か言う。
青年はため息をつく。
でも、幼なじみがつかんでいない方の手は幼なじみの首筋を撫でている。
幼なじみがベッドの中で彼にするように。
幼なじみがその手を軽く叩きおとした。
笑顔のままで。
そこにはセクシャルな雰囲気があった。
隠そうともしてない濃密な雰囲気があった。
彼は震えた。
今まで考えもしてこなかったことに。
自分には幼なじみだけだ。
でも、幼なじみはそうじゃないかもしれない。
そんなこと考えもしなかった。
ともだちにシェアしよう!