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籠の中の鳥~鳥籠 第6話

 タクシーに乗せて家まで送られたのだと、少年は母親に聞いた。  知らない間にLINEに番号が登録されていた。  迷ったのは数日だった。  電話をしてしまった。  優しく無茶をしたことを謝罪され、綺麗だったから、可愛かったからと言われたなら、奇妙に観察するような色を見せるあの目の違和感は気のせいだったような気がした。    また抱きたいと言われたら、胸が切なくなって、教えられた快感を思い出してしまった。    そして、また合同練習の日、抱かれた。    中だけで出さずにイケるようになるまでと言われ、抱かれた。  また深夜まで責め抜かれた。    優しく、宝物のように抱いてくれたけれど、どんなに頼んでも止めてくれなかった。    また、気絶しても止めてもらえなかった。  でも優しかった。    こんなに優しく触れることなど、この人以外にはいないだろう、そんな風に抱かれた。  何度か身体繋いだ。  いつも部活のついで、だった。    電話には出てくれ、短い時間でも、楽しく話もしてくれた。  可愛い。    綺麗だ。  抱きたい。   そう言ってくれた。  口の中だけでイケるように。  乳首だけイケるように。  まるで実験でもするかのように身体を毎回開発された。     フェラの仕方も教えられた。  毎回それができるようになるまで責められつづけ、気を失っても身体を使われ続けた。  でも、優しかったから、後始末してくれて、抱きしめてくれたから、フラフラになる身体を引きずって家に帰っても、次の日寝込んでも・・・かまわなかった。  たまにしか会えないから。  そう言われたらそうだと思った。  夢中になっていた。  「もう終わり」  淡々と別れは告げられた。  やはり部活の後だった。  さすがに抱こうとはしなかった。  「楽しかったよ」  優しい笑顔。  優しい声。  何の未練もないのが分かった。  驚きに身体を凍り付かせたのは少年の方だった。  抱かれると思って、期待にもう股間は勃ちあがっていたのに。  身体はもう熱くなっていたのに。  いつものように背後から抱きしめてられて、床にバスタオルを敷かれ、そこで甘く身体を溶かされるとおもっていたのに。    「何で・・・」  声が震えた。  「もう十分。満足したから」   それは正直な言葉なのだとわかった。  もういいのだ。  もう、興味がないのだ。  何か分からないけれど、ソイツを夢中にさせていたものはこの身体にはないのだ。  それが分かった。  だからといって納得などできるはずもない。  会えるのを楽しみにしていた。  合同練習のあとだけしか会えないこと不思議に思っていたし セックス以外の何一つ会ってもしなかった。  こちらからする電話以外はなかった。    だけど。  だけど。  あんなに優しく抱いてくれたのに。     理性は納得している。  でも心がそれを認めない。  「嫌だ!!」  叫んですがりつく。  セックスしたらまた優しいソイツが手に入る、そう思った。  そう、どんなに疑問に思っても、とても優しく抱いてくれたのだ。  どうでもいい相手にあんなセックスはしない。  それだけは分かっていた。  「嫌だ・・・抱いて」  少年は強請る。  セックスすれば何もかも元に戻るかと思って。  「・・・わかった。してあげる」  冷たい声がした。  聞いたこともないような冷たい声だった。  「ああっ!!いやっ!!」  悲鳴なのか、嬌声なのか、少年にも分からない。  髪を掴まれ、床に押し付けられ、乱暴に後ろから犯されていた。  ズボンをぬがしもしていなかった。   ズボンと下着を引きずり下ろしただけの尻を犯される。  ローションを使われはしたが、ろくに慣らしもしないで突っ込まれた。  「したいって言ったのは君でしょ」  感情のない冷たい声が言う。  優しい行為しか知らない少年は、その乱暴な突き上げに泣き叫ぶ。  はじめての時でさえなかった痛みに身体が引き裂かれる。  それでも、勃起していた。  それでも先から零していた。  ソイツは乱暴ではあっても、的確な場所を抉るからだ。      「ふぅっ・・・いやぁ・・・」  まだ開発されたばかりの奥を乱暴に突かれ、少年は白目を剥く。  ガクガク震える身体を、さらにソイツは貫く。  何の配慮もされない。  玩具のように扱われる。  「すごいね、こんな風にされてもイケるんだ」  その声は冷たい。  何の感情もない。      少年を蹂躙するその動きはただ一方的に快楽を貪る暴力だった。  甘やかされることしか知らない身体を好きなように抉られる。  無理やりひきだされる快感はほんの少しの甘さもない。  いや、快楽さえ恐怖でしかなく、それをわかっていてソイツがそうしているのは確かだった。    「やだぁ」  少年は叫ぶ。  また乱暴に快楽の波の中に投げ出される。  殴りつけられるような快楽だ。  射精でさえ、自分の意志ではなく、無理やり導かれる。  苦痛のような快感は心をすり減らすだけだ。  「良く言うよ。またイってるくせに・・・淫乱だね」  冷たく声が心を苛む中で、射精する。    冷たい床に髪を掴まれ顔を押し付けられる。  ただ乱暴にかき混ぜられ、貫かれる。  大切にされていないことだけを示され、それでも何度もイカされる。  「僕ね、簡単にサせる子は嫌いなんだ。君を口説くのに何分かかったっけ?・・・安いよね」  冷たい嘲笑。    「あっ・・・」  それでも少年は動きの的確さにまた中だけでイく。  どくどくと、奥で出された。  「あ、でも中で出せるのは大好き。中出しは君としかしてない。処女のいいところは病気の心配がないところだね。それくらいかな、君のいいとこって」  笑われた。   たっぷり出したそれを引き抜かれ、乱暴に今度は喉に押し込まれた。  「舐めて。教えたでしょ。綺麗にしてから、勃たせて飲んでね。好きでしょ、しゃぶるの」   酷い言葉。  でも言うことを聞いてしまうのは、まだ信じられないから。    「ごめんね、嘘」  そう言って、また優しくしてくれるかもしれないと思うから。  泣きながら舐め、しゃぶり、扱き、乱暴に喉を犯される間もずっと待っている。  それでも開発された口の中で冷たい気持ちで快楽を得ながら、心を冷やしながら、苦しみながら、それでも待っている。  優しくされるのを。  優しい言葉を。     宝物のように扱われるのを。  「僕ね、君みたいなタイプ嫌いなんだよね、ホント。綺麗だからって調子に乗ってんのホント嫌い」  射精されながら囁かれた。  心を切り刻まれる。  それでも、教えられた通り飲み下し、夢中でしゃぶる。  泣きながら。  それでも射精していた、口でするだけで。  教えこまれたように。  まだ信じている。  これが嘘であることを。  あんなに優しくしてくれたじゃないか。    「でも最後だからね、満足するまでしてあげる。良かったね」  冷たく笑われ、髪を掴んで顔をあげさせられた。  ソイツの顔のどこにもあの優しい笑顔はなかった。  見たこともないような残酷な笑顔があった。  「・・・僕ね、本当は優しくするより、酷くする方が大好きなんだよね」   それが本当なのもわかった。  じゃあ何故、あんなに優しかったんだ。  それが少年をソイツに執着させる。  「でも、大丈夫。イカせてはあげる」  ソイツは言った。   それも本当だった。  冷たい床に顔を押し付けられたまま、顔さえ見られることなく何度も何度も犯された。  中で出され続け、イカされ続ける、暴力としか言えない作業は何時までも続いた。    気を失い、再び目覚めたとき、そのまま放置されていたのを知った。  誰もいない部室で、後ろから精液を零し、精液で汚れた身体のままで。    ドアにカギさえかけず、一人少年を残しアイツは去ったのだ。    確かに翌日は練習は休みだとは聞いていた。   でも、この状態で置き去りにするのはあんまりだった。  泣きながら起き上がり、なんとかシャワー室まで身体を引きずり、身体を綺麗にした。    何度も倒れそうになりながら家を目指した。  それでも。  それでも。  納得できなかった。    そんなことでは納得できなかった。  何故なら、与えられた優しさは何だったのかが分からないからだ。  何故あんなに優しく抱いてくれたのかが分からないからだ。  あんなに優しくする理由がないからだ。  納得できない。  納得などしない。  少年は泣きながら夜明けの道を歩く。  諦めなどしない。  確かに与えられた優しさを忘れられるはずがない。  こんなに酷い目に合わさせれても。  少年は諦めるつもりなどなかった。                   

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