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籠の中の鳥~鳥籠 第8話

 「彼に関わるな」  幼なじみは硬い声で言った。  「もう、嫌われた?あの子あんたがどんなヤツか知らなかったみたいじゃない」  クスクス少年は笑う。  少年が呼び出されたのはいつもの部室だった。  いつも抱かれた部室。    彼の存在に気付いたのは、少年が幼なじみを追いかけてこの学校に忍び込んだ時だった。  制服は部活で知り合ったこの学校の生徒に借りた。  幼なじみに会う為ではなく、遊び感覚で侵入することにしていた。  誰も幼なじみと少年が親しいとすら思っていないのだ。  部室での性交は甘い秘密だったから。  「恋人とかいるのかな」  何気アイツの名前を出して聞いた。  あんなにも優しく出来るのは優しくしたい誰かかいるからではないか、そう見当をつけはじめてさえいた。  「さあ、そういう話絶対しないしね、誰にでも優しいしね。いてもおかしくはないだろ」  その生徒はそう言った。  あの本性をうまく隠して生きているのだ。     そう、思った。  食い尽くされるまで、誰もアイツが何なのかを知らない。  そう思った。  「あ、でも、よくお前ら付き合ったらって言われてるよな、相手男だけど。アイツいつも幼なじみと一緒にいるんだ。幼なじみと言うよりは一緒に育った兄弟みたいなもんらしいけど」   生徒の言葉に分かった。  それだ、と。    「でもないな。ソイツ潔癖性で人に触られるのとか絶対駄目だもん。だから人ともうまくやれないし、アイツが面倒見てやってる感じ」  その言葉は確信を与えただけだった。  すぐサセる子は嫌いと少年に突っ込みながらアイツは言った。  お前こそ誰とでもするだろう、今ならそう思う。  おそらく。  誰にも触れさせない誰か。  セックスするなど考えられない誰か、をアイツは思って言ったのだ。  それが誰かは分かった。  自分が何をされていたのかも解った。  酷いことをされていたのだ、と 知った。  少年が初めてであることにこだわったわけもわかった。  身代わりどころか、その子を抱く時の練習台にされた。  あの指の優しさ。  舌の、唇の。  忘れられなくなる程の細心さで触れられる。   逃げられなくなるほどの優しさで。  肌に当たる呼吸さえ優しいあの抱き方は。  その子のためにあったのだ。  なんて言う屈辱。  「嫌われてしまえばいいのに。アンタ最低だ」  少年は幼なじみに憎々しげに言った。  「何か僕が君に約束したか?自分から脚を開いたのは君でしょ。無理やりしたわけじゃない」  幼なじみはせせら笑う。  コイツがこんな奴だと誰がが知っているのだろうか。  優しい笑顔で優しい態度で、その内部は腐りきっているのだ。  人を利用し、人の心を引きちぎり、それをなんとも思わない。    「あの子はそうは思わないんじゃないか?」  少年も引かない。  終わらせない。  こんな簡単には終わらせない。  心が痛む。   それでも、その指を求めてしまうのが。  甘く求められた記憶が、心を苛む。  身体が欲しがる。  甘い優しさを。  コイツは人を利用したのだ。  欲しくて堪らない身体のかわりに。  その身体の代用と、いずれ抱く時の練習としてこの身体を使ったのだ。  それがな分かっているのに、幸せだった記憶が心と身体を混乱させる。     何よりも大切なものとして扱われた身体が、欲しがる。  また愛して欲しいと。  心も叫んでいる。  これが嘘であって欲しいと。  傷付いたプライドと求めずにはいられない心は同居できない。  だから、憎むしかなかった。  同じだけの血を。  コイツの心を傷付けたい。  少年はソイツの痛みだけを欲していた。  「お前の言葉なんか信じないよ。彼は僕を信じてる」  アイツはまた冷たく言い放つ。    ああ、そうだろう。  お前はあの子の前では自分を偽ってるのだろう。  優しく優しく振る舞っているのだろう。  あの子以外はどうでもいいくせに。  「今はね。でも、アンタ絶対にオレだけじゃないだろ?よそでもやってる。絶対に」  少年には確信がある。  ひどくするのが好きだと言った。  あの酷さは手慣れたモノだった。  おそらく優しくする練習と、酷くして楽しむことをコイツは繰り返してきたのだ。   他人を何だとおもってるんだ。  腹立たしい。  「他にも見つけて、あの子に教える。何人になったらあの子は信じるかな、1人2人なら信じてくれるだろうけど、あんたそんなモノじゃないだろ」  釜掛けだったがソイツは反応した。  ピクリと身体を震わせた。   少年はうんざりした。  そういう場所でちょっと探せば、そうした相手を見つけられる程、コイツはそういったことを繰り返してきたのか。    なんて男だ。  最低だ。  「あの子はお前が髪を掴んで顔を床に押し付けて、罵りながら犯すようなヤツだとはおもってないんじゃないの?それを何人にしたんだ?もっと酷いことだってしてるんじゃないのか?」  そうされたのはこの床の上だった。    あの屈辱を忘れない。  それでもイカされ、イったことを揶揄され笑われたのだ。  快楽さえ屈辱だった。  何よりコイツがはそうすることで二度と少年が自分に近づかないように、そして、何より楽しむためにそうしたのだ。  おそらく、少年と身体を重ねた時で一番コイツが楽しんだのはあの時なのだ。  嘲笑いながら、犯した時こそが。  ゾっとした。  人間の形をした悪魔だ。  「あの子もお前が何なのかを知るべきだ。人助けだよ」   これは半分本当。  コイツが溺愛しているあの子は、少年の話を嘘だとは決めつけてなかった。  コイツを信じてないわけじゃない。  人が嘘をつくということを思いもつかない純真さからだった。  少年が嘘をついて騙すなんて思いもつかないのだ。  こんな悪魔と長年一緒にいて、コイツを信じこんでいるのだ。  バカがつくほどお人好しなのは間違いない。    哀れだった。  コイツは悪魔だ。  素直に信じこむなんて。  ドロドロに汚れた手で、あの子は優しく優しく汚されるのだ。  それとも、もう汚されたのだろうか。  忘れられなくなるような、あの優しい汚れた指に。  「知って離れた方があの子のためだろ」  これも本音。  少年は挑戦的にソイツを睨みつけた。    あの子を失って苦しむがいい。  「ふふっ」  ソイツは笑った。  柔らかく笑った。  こんな場面に不釣り合いな笑顔だった。  こんなに怒り狂っている少年でさえ、目を奪われるような。  「そんな理由?それだけが理由?違うでしょ」  優しい声が言う。  誤魔化されない。  少年は唇をかみしめる。  コイツに思い知らせるために来たんだ。  「だって、そうするだけなら君は別にここにこなくてもいいよね」  近づいてくる。  優しい声の、優しい姿の、腐った中身の、酷い男。  綺麗な明るい茶色の瞳には、なんの濁りもないのだ。  綺麗な瞳に自分が映る。  吸い込まれる。  「僕に会いたかったくせに。それがホントの理由でしょ」  優しい声がいつのまにか耳もとで囁かれる。  身体が震えた。  「綺麗だ。可愛い」  初めてそう言われた時のように囁かれた。  優しい声が耳から侵入してくる。    「もう抱いてもらえないのがつらかったんでしょ?優しくされたいんでしょ?・・・いいよ、たまにならしてあげる」  肌に触れないような細心の注意を払われ、その指が少年の制服のシャツのボタンを外していく。  何故か動けなかった。  そっとシャツをまくり上げる時でさえ、その指が肌に触れないことを少年がは知っている。  「触る、ね」  甘い懇願。  これも知っている。  キスするように顔を近づけられてもそこ唇は触れないまま、優しい笑顔が少年を見つめていた。  「僕の指が好きでしょ?」  その言葉と共に、そっと、本当にそっとその指は少年の肌に触れた。  触れたら壊れてしまうものを触るかのように。    ビクン  身体は大きく震えた。  腹に触れられただけなのに。    「いっぱい触ってあげる」  その手は少年の存在を確かめるように撫で始めた。  そこにある存在を知るかのように触れ始めた。  触れたそこから、少年の姿が生まれるかのように。  「ああっ・・・」  少年は喘いだ。    この手を忘れられるはずなどなかった。  まるで、この世界に自分程大切なものはないかのように思わせてくれる、この指を。  いつのまにか、服は脱がされ、床の上に横たえられる。  優しい指はズボンや下着を脱がせたことさえきづかせない。  「舐めて欲しかったの?・・・いいよ、舐めてあげる」  耳を齧られながらささやかれ、少年はその手が促すまま、自分から脚を開く。  欲しかった。  欲しかったのだ。  忘れられるはずなどない。  誰だってこんなに大切に扱われたなら、忘れられない。  理性では理解していても、心と身体は納得していなかった。  この優しさが欲しいと叫び続けていた。  「もう、こんなにしてるじゃない。部屋に来た時から期待してたの?」  そう言う声も優しい。  綺麗な目は澄み切って、何の影もない。  いつものように勃ちあがり、濡れ震えている性器には触れることなく、ソイツの舌が優しくなめるのは穴の方だ。  後ろでイカせることが好きなのをもう少年は知っていた。    脚を広げられ、舐められ濡らされたそこに、熱いそれをあてがわれた。    「挿れるね?欲しかったでしょ」  優しく頬を撫でられる。  まるで、誰よりも優しい恋人のよう。  息を荒げ、もう限界まで勃ちあがり張り詰めてた自分のソコをから雫が零れる。  身体は期待しているのだ。  心も。  甘やかされることに溶けきった。  熱さと甘さに身体の総てが弛緩した。  可愛い、綺麗だと、優しく囁かれたなら、それだけでイった。  あの酷さが嘘のように思えた。  そんなことないのに。  分かっているのに。  こんなに大切に扱われたなら・・・おかしくなってしまうのだと知った。      熱く甘い杭で、貫かれたかった。     その熱い芯を身体に入れて、溶け落ちてしまいたかった。  責めぬいて、甘やかして、蕩けさせて欲しかった。  ずっぽりと嵌まってくるそれを腰を揺すりながら受け入れた。  奥まで欲しかった。  「淫乱」  冷たい声に頭が冷えた。  閉じていた目を見開く。   パシャ  機械的なシャッター音がした。  自分の目の前にスマホがあった。  ソイツは少年に挿れながら、スマホで少年を撮影していた。  「ハメ撮りはしたことなかったんだよね、僕」  ひどく乾いた声が言った。  目を見開く顔をまた撮られる。  ゆっくりと動かれ、声を上げてしまう。  その様子も撮られる。  「僕を脅すなら僕も脅す。君のいい写真をたくさん撮って、ネットにばらまくから」  その声はどこまでも冷静だった。  「嫌、だ、やめ!!」  スマホを掴もうとした少年は奥まで強く突き上げられ、喉をそらす。   勃ちあがったそこから、思わず迸らせていた。    その様子を撮られる。  少年の穴に絞られたことに、吐息を吐きながら。     「動画にしとけば良かったかな。綺麗だよ、可愛い。ネットにばらまけば人気者だよ」  悪魔が優しく囁きながら、腰を揺らす。  「ああっ・・・やだっ・・やだ」  それは甘い動きで思わず感じてしまう。  「お腹に精液とばして、穴にくわえ込んでる写真ってのもいいよね。エロい」  優しい声が笑いながら言った。  シャッター音。  「これが終わったら僕のを咥えてイってる写真も撮ろうね。きっとエロい写真になる。みんなの人気者だ」  ソイツはスマホを置いた。  残酷に突き上げるために。  そこからは優しさはなかった。  快楽と酷さしかなかった。  惨く扱われた。  「優しくされたかったの?・・・するわけないでしょ。お前なんかに!!」  乱暴に突き上げられ、罵られた。  「ああっ!!嫌っ!!」  それでも抉られ、またイってしまう。  また中に出された。  「穴から零れるところも撮っておこうね。いい写真になる」  囁かれた。  引き抜かれ、またシャッター音がする。  精液が零れる穴を撮られているのだ。  震える身体のまま、抵抗も出来ずにその写真を撮られた。  でも、少年は笑った。  泣きながら、でも笑った。  胸は痛んでいた。   本当に好きにさせられた。  夢中にさせられ、地獄に突き落とされた。  でも、だ。  「何がおかしいの?」   ソイツの茶色の目が初めて不安な色を浮かべる。  ここは少年が笑う場面ではないからだ。  少年は泣きながら、でも勝ち誇っていたからだ。    「ロッカーの上、見てみろよ」  少年は力の入らない身体で、やっとのことでそこを指差した。  ロッカーの上にはスマホがあった。  台で固定されていた。  撮影されているのはすぐにわかった。  「オレはネットにばらまく必要なんかない。たった一人に見せるだけでいい」  少年は言った。  傷ついてはいた。    苦しくはあった。  でも、満足はしていた。  自分を地獄へ突き落とした相手を地獄へ一緒に連れて行けたから。  ソイツの顔は見物だった。  叫び声さえあげたから。  そのカメラがどこに繋がっているのがわかったから。  自業自得。  化けの皮が剥がれる瞬間。  人間に恋したバケモノが、恋した者の前でその正体を暴かれた。  その一瞬を少年はその目で見たのだ。  哀れな生き物は、携帯のカメラに向かって、手を伸ばしさえしたのだ。  哀れな。  哀れな。  叫び声を上げてズボンを慌てて引き上げ、部屋を駆け出して行くソイツは滑稽でしかなかった。  哀れな。  哀れな。  胸がすく想いがするかと思ったのに、確かに笑えるのに少年の胸には痛みがあった。  でも、少年は笑った。  笑い続けた。  乱暴に家の扉が開けられた。  階段を飛ぶように駆け上がる音にも、部屋のドアが壊される勢いで叩きつけられる音にも彼は反応しなかった。  幼なじみは彼の名前を叫んだ。  彼は静かに泣いていた。  ベッドの上な投げ出されたタブレット。  そこに少し前に映しだされていたものを幼なじみはもう知っている。  その隣で横になりながら、彼は静かに泣いていた。  声もなく、ただただ透明な涙が頬からベッドカバーへ落ちていく。  靴を脱ぐことを忘れていたことに幼なじみは気付いたが、今さらどうでも良かった。    言葉さえなく、ベッドの前に跪く。    失敗したのだ。  失敗した。  あの少年をナメていた。    もう一人の男の方は、抱かせてそれを動画に撮って脅すことに成功したのに。  久々後ろで楽しむことを楽しみはしたけれど。    未成年者相手の動画に男は震え上がった。  簡単だったのに。  少年の方に逆襲されるなんて思ってもみなかった。  自分の方が撮られることは考えていなかった。  彼が泣いている。    傷ついて泣いている。  自分が傷つけたのだ。  「お前は・・・誰?誰なんだよ・・・」  彼は幼なじみを見ようともしないで言った。  彼は愛してくれた。  愛してくれた。    本当に愛してくれたのに。  でも、幼なじみは知っていた。  ずっと知っていた。  彼が愛している幼なじみなどこの世界に存在しないことを。  優しく思いやり深い幼なじみなどいない。    彼を閉じ込めるために彼を操作する男だけ。  彼の母親と自分のと父親の浮気にショックを受けた彼を誘導し、潔癖症を煽り、独り占めしている酷い男。  嘘。  嘘。  嘘。  あちこちで汚らしく欲望を吐き出し、彼を快楽で縛るための練習を他人でする。  貪り、人を踏みにじる。  幼なじみには嘘しかない。  「愛してるんだ」  悲鳴のような声をあげる。  これだけ。  これ以外は全部嘘。              

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