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籠の中の鳥~鳥籠 第11話
また変わらない日常が続いている。
彼の潔癖症は相変わらずだ。
むしろ酷くなった。
結局、幼なじみが触れるのにもまだ抵抗はある。
前みたいに身体を触れさせることはまだ無理だ。
幼なじみと触れ合えるようになるにはまだ時間はかかるだろう。
幼なじみは構わないという。
セックスなんてできなくてもいいという。
彼さえいれば、と。
でも、幼なじみは彼以外には触らないんだから、と彼を裸になるように言って生身の彼でオナニーしたりしている。
嫌われたとしても、捨てられない、と言うことに安心したせいか、嘘をつかなくなったらめちゃくちゃなことを要求し始めた。
目の前でオナニーすることを求められたりもしていて、彼もほとほと困っている。
捨てられない。
すてられるはずがない。
自分をまもるために、嘘そのものになり果ててしまったのに。
そして、その嘘は彼を守りたい優しさからはじまったのだから。
鳥籠は壊れた。
籠をあむ嘘は崩れ去ったから。
でも行けない。
どこにも行けないのだ。
行けるはずもない。
そこには優しさが確かにある。
棄てられるはずもないのだ。
幼なじみは優しい。
誰よりも優しい。
彼だけに優しい。
嘘ではない優しさは、籠がなくなっても彼を縛りつけるのだ。
それでもいい。
彼はそう思った。
嘘はもうない。
彼に幼なじみは確かに言った。
それは嘘。
幼なじみは生来の嘘つきだから。
彼を傷付けないため、彼に嫌われないためならどんな嘘でもつく
さすがにもう、他で誰かを抱いたり抱かれたりするようなことをごまかす嘘はつかない。
でも、嘘を自分がつき続けることは知っている。
自分は生粋の嘘つきなのだ。
自分の父親と幼なじみの母親の付き合いは長い。
自分以上に嘘つきなあの二人。
その関係が、自分の母親の死後からだなんて、そんなこと幼なじみは思ってはいなかった。
あの二人なら母親が生きていた頃からしていただろう。
裏切ることをなんとも思っていないからだ。
バレなければいいと。
あの二人には愛などない。
彼の母親は自分の夫を愛しているし、自分の父親は今でも死んだ母親を愛している。
だがあの二人は自分とは違い、愛する者以外に誰かが必要なのだ。
僕は違う。
彼だけいればいい。
他を求めたのは嫌われたくなかったからだ。
あの二人ほどの醜悪な嘘つきはいない。
何故、彼はほんの少しも彼の父親に似ていないのだろう。
わずかばかりの共通点さえ外見にはない。
何故、あの、人の心のないような自分の父親が彼をあれほど可愛がるのだろう。
時には幼なじみ以上に。
他人の子に必要以上の関心を持つタイプではないのに。
何故彼の母親は似ても似つかない夫と息子が似てると言いたがるのだろう。
そして、彼は幼なじみの目を綺麗だというけれど、彼の目もまた同じ色合いをしているのだ。
幼なじみの父親と同じ色。
明るく澄んだ茶色。
幼なじみと彼は手の形や足の形も良く似てた。
彼は気付いていないけど。
そこには嘘の匂いがする。
幼なじみは嘘つきだからわかる。
でも、幼なじみは何もかも言わない。
そんな嘘はそのままにしておく。
兄弟なのだと知れば、彼は傷付き苦しむから。
彼が傷付くなら嘘は嘘のままで。
彼を守るためなら、やはり幼なじみは嘘をつくのだ。
幼なじみは天性の嘘つきだから。
今はまた、彼に触れられなくなった。
「触れられなくてもいい。そばにいられるだけで」
そう言っている。
でもそれも嘘だ。
幼なじみは彼をいつか抱く。
そう決めている。
時間がいくらかかってもかまわない。
兄弟だと?
そんなことは彼を欲しがるのを止める理由にならない。
彼の奥深くを穿ち、そこで放つ。
優しく。
優しく。
自分だけに縛るために、深く深くつながるのだ。
離れられないくらいに。
それをずっと夢見てる。
抱いて全てを縛り付ける。
鳥籠はもうない。
つまりもう出口もない。
逃がさない。
END
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