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モンスター~ピュア 第6話

 またまた仕事相手のオッサンから電話があった。  今度はまた時間が出来た、とのことで。  結局昼過ぎにインタビューに行くことになった。  こういうのはいつものこと。  オッサン達はそれなりの成功者なので、スケジュールが狂うことは良くあることなのだ。  でも、皆さんなんとしてでも時間を作る。  自分を誉め讃える、「自伝」を書いてもらうために。  「自伝」、なのでオレはあくまでも雑誌の編集者的な感じで取材する。  誰ひとり、ビジネスでは優秀であってもこのオッサンに物が書けるなんて思ってない。  でも、本人だけはそう思っていなくて、自分が書いたってことが一番大切なのだ。    オレはちなみに素敵なスピーチなんかも書いてやってる。  上品で、しかもウケるジョークをいれたスピーチはオッサン達に評判がいい。  特に漢詩や和歌を入れてやると大喜びだ。    本人達はそんなモノ、スピーチを読むまで知らなかっただろうけどな。  オレはボイスレコーダーとカメラを持って、取材に向かう。  オレはカメラマン位まではする。  この写真が出来上がった本の中でどう使われるのかは、またオッサン達と話合う。  あとがきに成功した現在の写真としてか、表紙にするか、また表紙のすぐ後に数ページ今までの歩みを写真でみせるか、など、まあ、色々。   今回の写真は多分どこかに「  ホテルにて」と高級ホテルの名前をわざわざ書いて使うことになるのだろう。  オレはオッサンの超時間インタビューをホテルのいい部屋で行った。  オッサンはオレには機嫌がいい。  なんといっても自分の人生を本にしてくれるのだ。  しかも、自分が望むように。  オレはオッサンからどうしても書いて欲しいエピソード、人からこう思われるように書いて欲しいなどのひどくまわりくどい要求を辛抱強く聞いていく。  オレはオッサン達を笑わないぞ。   誰だって。  自分が物語の主人公だと思いたい。    それのどこが悪いんだ。  どうせ、オッサン達当人達しか本気で読まないんだ。  自分に向けての物語だ。  なら、大切に書いてやりたい。    オレは目の前のオッサンが欲しい物語を探しながら、インタビューを続けた。  インタビューを終えて、ホテルのロビーに出た。  何かパーティーがあった後なのか、ロビーには着飾った人々が溢れてた。    へぇ。  VIPでもいるのか、華やかなのだがどこか物々しい警備がいるような。  でも、そのわりには。  取材のカメラや記者達がいなかった。  奇妙な程、カメラのフラッシュがなかった。  というより、誰ひとり携帯のカメラさえ使っていなかった。  人々が集えば撮影会は始まるのだ。  政治家のパーティーであれ、結婚式であれ。  むしろ、そのパーティーに参加した証拠こそが意味を持つものなのだ。    なんだ。  なんだか変だ。  オレは奇妙に思った。  パーティーはこれから始まるのだろうか。  警備員が会場の入り口でボディチェックをしている姿も見られた。  仕事柄、こういうホテルでインタビューはする。  でも、こんなパーティーは・・・初めてだな。     オレは不審に思いながらも出口へ向かった。  まあ、オレには関係ないことだ。  こんな高級ホテルでパーティーするような奴等とは縁がない。  オレの仕事相手のオッサン達ならあるかも知れないが、オッサン達こそ、こういうパーティーに参加したことを写真に撮らずにはいられない連中だしな。  これは、何か、違う。  煌びやかな住む世界の違う連中が、どこか奇妙な緊張感を持ってそこにいたのも・・・気になりはしたが。    オレはオレには関係のない世界に背をむけた。   家に帰ってインタビューの整理だ。  オッサンの自伝をどういう内容にするのかまとめないと。  破天荒な改革者、的に書いて欲しいのはわかった。  事実と、オッサンか話してくれたエピソードと、何か、それっぽい作り話をうまくまとめてやらないとな。  そういう嘘ならオッサン達は勝手に付け加えられてもなにも言わない。  広いホテルのエントランスを歩いていると、駐車スペースに見たことのある車が止まった。  黒塗りの。  あれ?  ホテルの駐車場係が車のドアを開けようとしたのを助手席から出てきたボディガードが押しとどめ、ボディガードが後部座席のドアを開けた。  そのボディガードにも見覚えがあった。  そこから出てきたのは・・・やっぱりアイツだった。  ホテルに出入りする人々が一瞬で足を止めた。  まるで映画俳優でも見たかのような反応だったが、それはその後、歓声などが起こるそういった反応とは違い、誰もが黙りこんだ。  威圧するような存在感。  190センチある巨体だけのせいじゃない。  山の中で熊にあったみたいな、ライオンの檻に放り込まれたみたいな、そこにいてはいけなかったことを感じずにはいられないのだ。  人間の防衛本能が叫ぶのだ。  コイツは簡単にお前を殺せる、と。  暗い瞳にはなんの光もない。  整った顔の無表情が余計に凄みをましていた。  怖い。   怖い。  コイツの存在自体がホラーだ。  でも、オレは知ってる。  コイツの中身は料理と掃除と、お花好きなおばさんみたいだし、笑えばとても可愛い少年なのだ。  後、めちゃくちゃエロいセックスをしてくることを。  いや、最後までしてない。  最後までは。  ああ、コイツの家のパーティーなのか。  住む世界が違うんだな、そう思った。  続けて降りてきたのが、あの青年だった。  そういう仕事のプロ。  多分アイツと寝ていた相手。  パーティーだから同伴者が必要なのか、わからないけれど、マンションでは軽装だったけれど、今は正装で、そのノーブルな装いがさらに青年を魅力的にみせていた。   まるでファッションモデルかダンサーのような美しい肢体が服の上からも想像されてしまうのが、妙にエロかった。  闇の貴族とその愛人。  そんな感じで、それは事実だった。    オレと会うまではこの人を呼んで抱いていたのだろうから。  一人ではなさそうな感じで、勝手に用意されてたみたいな言い方だったけど、エスコートサービスとしてパーティーに同伴させるんだ。  ・・・それなりに気に入ってたんじゃないのか。  背の低いオレとは違って、すらりと背の高い青年はアイツの隣りでしっくりきていた。    あ、またなんか、胸が痛い。  どうしてだ。      

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