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モンスター~ピュア 第8話
何度か目を覚ました。
病院だったのではないかと思う。
どこか医者の声やら、繋がれた機械の電磁波音やら、痛みやら、看護士達の声やらを遠く聞いていた。
誰かに質問されて、何か答えたことも、「痛い、なんとかしてくれ」って言ったことも・・・。
なんとなく覚えてる。
でも、どこかでずっと叫び続ける声を聞いていた。
「先生!!先生!!先生!!」
低い低音の声は、ずっとほえ続けていた。
うるせぇ。
そう言ったような気もする。
泣くなよ、馬鹿が。
そう罵った気もする。
何度か目覚め、眠ることを繰り返して・・・。
オレはふと今自分がどこにいるのか気になった。
ここはどこだ。
オレは目を見開き、ヨロヨロと起き上がった。
うわぁ、起き上がるだけでもしんどい。
何、コレ。
痛いし、何コレ。
もう機械にはつながれていなかった。
病院ですらなかった。
オレが見たこともないような美しい部屋にオレはいた。
映画の中みたいだった。
天蓋付きのベッドって。
こんなもん実在したのか。
柔らかにかさなる、ベールみたいな幕の向こうに、複雑な額縁みたいな枠がある窓があった。
こんな部屋、知らない。
天国か?
「目が覚めた?」
優しい声がした。
ベールみたいなカーテンをかき分けて、その人はやってきた。
Tシャツとジーンズ姿の天使だった。
綺麗だ。
そう思った。
天使は優しい姿に淡い笑みを浮かべていた。
今の天国はそんなところは現代風なのに部屋だけは、古い洋画みたいだな。
それも白黒映画の時代モノみたいな。
淡い白だけで作られているから余計にそう思う。
ロマンチックすぎる。
嫌いじゃないけど。
ロマンチックなのはいいじゃないか。
ん?
オレはバリバリの文系なのだ。
専門は古典だが、もちろん海外の文芸作品も読むし、映画もみるぞ。
この部屋はロマンチックすぎる。
立派で広すぎるベッド(ここならアイツと寝ててものびのび寝れるなんて考えて急いでその考えを打ち消す。いや、一緒に寝ないから)、その枕元に天使は立った。
「どう気分は?」
天使は柔らかい声で言った。
ハスキーな声。
「悪くない」
オレは答える。
他に何をいえば?
「しっかりしてるみたいだね。目は覚めたのになかなか、意識がはっきりしなくて心配したよ」
その口調から、天使が男であることに気付く。
そして、天使が誰かわかった。
アイツの・・・愛人の一人だ。
アイツと一緒にマンションを出た、アイツとパーティーに行った・・・。
あの綺麗な青年だ。
今はオフモードなのか、妖しさはなかったけれど、でも綺麗だ。
すごく綺麗だ。
なんか、なんか、胸がモヤモヤしてきた。
何でだよ。
「ごめんね、ボクなんかがここにいて。でもね、君の為なんだ。あの子と君の繋がりを知るものは出来るだけ少ない方がいい。だから、ボクが君の世話をしていたんだ。もう君のことを知っていたから。ボクがこの屋敷にいるのはそれ以上の意味はないんだよ」
青年は申し訳無さそうにいった。
「それに誤解しないであげてね、あの子は君だけが好きだよ。ボクとあの子の関係は・・・あの子の意志じゃないんだ。年端も行かない子供の意志を無視して、無理やり好きでもない誰かを抱かせるなんて、加害以外の何物でもない、まあ、ボクも加害者だけとね」
青年は悲しそうに言った。
なんだ、それは。
オレの驚く顔に青年は悲しげに微笑んだ。
「あの子に意志なんてなかった。最初なんか、連中はまだ母親を亡くしたばかりで泣いてる子供に女を抱かせようとしたからね。ベッドに寝ている子供に裸の女を跨がらせて。ただあの子には女の人は母親と同じで、守るべき存在で性の対象にはなりえなかったんだよね。母親に対する罪悪感でいっぱいだしね、自分さえいなければ、みたいにずっと自分を責めてるしね。で、女を抱けなかったら次は、ボクらを差し向けたってわけ・・・酷いもんだよ。まだあの子も確かに身体こそ大きかったけど、子供だったのに。精液まで採られてるからね。いずれ子供を作るために保管されてる」
オレは青年の話に言葉を失う。
なんだ、それは。
「泣きながら怖がる子供に跨がるのは、ボクみたいな仕事をしていても辛いものだよ。快楽だって?・・・あんなやり方では恐怖ばかりだっただろうに。酷いことをした。本当に」
青年は唇を噛みしめる。
「慣れたところで、ね。あの子にはボク達は屈辱の記憶でしかない。あの子には君だけ。わかってあげて?」
優しい目がオレを見る。
本当にアイツを気遣っているのだとわかる。
「ボクはあの子が好きだし、あの子もボクのことを好きでいてくれてる、他のそういう子達に比べたらね。ボクはあの子に同情してたからね。ボクも、あの子も・・・自分じゃどうしようもないものに縛られてる。ボクは過去形だけどね。あの子はこれから先も、自由なんかない。縛られ続ける」
何に、とは聞けなかった。
アイツが本当は何なのかさえオレは知らないのだ。
オレが思っている以上にアイツの背景はややこしいのか。
「・・・あんたも何かに縛られてるのか?」
オレは気になって聞く。
「昔、ね。セックスする愛玩用に育てられ、そういう組織にいたんだ。子供のころからね。まあ、色々あって、自由になったんだけど、結局そういう仕事をしてる。慣れてるからね。気楽なんだ。でも今は仕事の内容も選べるし、相手も選べる。登録制のエスコートクラブで働いてる。口が堅いから重宝されてる」
青年は肩をすくめた。
「あの子は君が好き。君だけが好き。わかってやって。ずっと君の側についてた。ずっと泣いてた。あんなあの子は初めてみた。可哀想な子だよ、友達はエスコートクラブの馴染みの男娼だけだなんて。お願い。ボクのことが不快だろうけど、ボクの言葉は信じて欲しい」
青年は白い手でオレの両手を握りしめた。
そんなことを言われても・・・。
オレは俯いた。
青年の手は真っ白で細くて綺麗で・・・オレは真っ赤になってしまった。
だって、女の子より綺麗なんだぞ。
オ、オレだって男だし・・・。
「あれ?・・・もしかして、抱く方もイケる方?」
青年が首を傾げた。
イケるも何も、抱かれるつもりなどないし、抱かれたりなどしない。
最後までしてないから、たとえ、ケツでバイブてイカされてても、まだ最後までしてないから!!!
でもそんなこと言えるわけもなく。
真っ赤になって俯くだけだ。
「ふうん・・・」
青年の口もとに妖しい微笑が浮かぶ。
さっきまでの天使モードが完全に消えて、なんか急にエロい。
エロいんですけど。
「ボクが抱いたら問題あるけど・・・ボクを抱く分ならノーカウントだよね。いいよね。なんか、君いいよね。ボクだってプライベートなセックスは必要だしね」
なんか言ってる。
指で首筋を撫でられる。
そんなことが、たまらなく気持ちいい。
思わず声が出てしまった。
「大丈夫、寝てるだけでいいから。身体の負担にならないようにするから、ボク、すごく上手だから、プロフェッショナルたから」
青年が笑う。
低い声を立てて。
嫌な笑い方だった。
オレは悟る。
マトモにみえたけど、コイツもヤバいヤツだ。
アイツと同じ位、常識は通用しないんだ!!
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