59 / 71

モンスター~ピュア 第10話

 「このビッチ!!先生を喰おうとしやがったな!!」  一瞬ポカンと性器を握りしめ達してるオレを見た後、しばらくの沈黙の後、アイツが吠えた。  多分、色々考えてたんだと思う。   その数秒の間に。    「喰おうとしたけど、止めたよ。でも可哀想でしょ、お前といたらこの人、童貞のままだよ!!童貞だけ喰おうと思っただけ。いいじゃないか、お前はこの人の童貞奪えないんだし」  青年は開き直った。  「お前に喰わせる位なら、先生の童貞もおれが貰ってやる!!」  アイツはとんでもないないことまで言い出した。  いや、無理。  それ、絶対無理。    大体、童貞【も】って何。  他のもあげないから、絶対。  青年は挑戦的に唇を吊り上げた。  あの、あなた、随分見かけとは性格違いますね。  あの。  余計なこと言わないで下さい。  「お前に出来るわけないでしょ」  青年はアイツに向かって吐き捨てた。  やめて!!  やめて!!  オレは心の中で叫ぶ。   そんな挑発やめて。  コイツ、オレのことでは頭がオカシイから。  「なんだと!!わかった・・・出ていけ、これからオレは先生の童貞をもらってやる」  なんでお前はそんなところで張り合う。  「怪我人に負担を負わせないセックスなんてお前に出来るの?」  青年が鼻で笑う。  いや、そんな問題じゃない。  問題はそこじゃない。  この人やっぱりイカれてる。    「・・・・・・やってみせる!!」  アイツか唸った。  お前が一番オカシイ!!  「出ていけ!!出ていけ!!」  オレは怒鳴った。  思い切り身体をよじって叫んだ。  傷口が痛んだ、出血してるかも・・・。  それでも叫んで・・・。  フラフラになって・・・。  オレはまた気絶した。    また目を覚ます。  もう、あの青年もアイツも今は見たくなかった。    医者がそのあと来て、少し話した。  医者が二人を追い払ってくれてよかった  アイツら・・・ホントいかれてる。  今は何も考えたくない・・・。  でも開けた目の先に二人はいなくて安心した。  少なくとも、怪我が治るまではそっとしておいて欲しい。  でも、部屋には誰かがいた。  気配だけがした。  何だかゾワリとした。  それは良くない感覚だった。  オレはゆっくり起き上がり、天蓋付きベッドのカーテンを開けた。  広い部屋の真ん中にその人はいた。  冷たい気配と良くない雰囲気はその人から流れ出しているのがわかった。    部屋の中は明るいのに、その人の周囲だけ光が吸い取られるように感じられた。  大きな身体。  美しいスーツの下の肉体は緩んでなどいないことが何故かわかる。  椅子に腰掛け、こちらを見ている人が誰なのかはすぐにわかった。  あまりにも似ていた。  本当にそっくりだった。  アイツが20年たてぱこんな姿だろう。  40手前のその男は光のない目までアイツに似ていた。  似すぎている。  この人だ。  この人が。  アイツの父親なのだと誰が見てもわかった。  「目が覚めたか。・・・気分はどうだ」   声まで似ていた。  超低音が響く。  決してへりくだることないだろう口調が、この男か何なのかを示していた。  絶対的強者。  上に立ち支配するもの。    オレは慎重に言葉を選ぶ。  「悪くないです」  礼を言うべきなのか、迷う。   確かに出来る限りの医療を施してくれていたのは間違いないし、意識はもどっても、どこかぼんやりしていた間、このやしきで面倒見てもらっていたのも間違いない。  でも、元はと言えばお前の息子が原因だし?    誰一人ここはどこかとか説明しないでオレの童貞の奪い合いとかしてるし?  もしかしたら気を失っている間に奪われちゃってるかもしれないし?  ・・・それだけは嫌。  「息子を救ってくれて礼を言う」  椅子をベッドの近くに運びながら男は言った。  礼を言ってはいるものの、その声にはなんの感情もなかった。  「はぁ」  オレは俯く。  ヤバい。  ヤバい汗が出てきた。  この人ヤバい。    「咄嗟の判断と決断力が素晴らしい。息子の愛人なんかにするよりウチのセキュリティーにしたいくらいだ」  本気で誉めてくれてはいたが、どこかに侮蔑を感じてオレはカチンと来た。  それに、愛人などになった覚えはない。  思わず顔をあげて、男を睨んでしまった。  あっ、やばい。  慌てて俯く。  「・・・気分を悪くしたかね。謝ろう」  全く謝っていない声で男は言った。  面白そうですらある声で、感情か伝ってきたことには安心感を覚えたけれど、オレの中の警報は鳴り響いたままだ。    危険。  危険な男。  「・・・オレになにか?」  オレは単刀直入に聞く。  この男はオレにわざわざ会う必要なんてないのだ。  礼など言う必要も、オレを息子から引き離す必要もない。  そうしたいなら、何でも出来る男なのだ。  「息子の・・・好きな人を見たいと思うのは父親としては当然だと思わないか?」  その声には感情はない。  普通の父親ならな、オレは思った。  コイツは知り得た情報だけなら人間じゃない。    恋人がいたアイツの母親と無理やり結婚し、無理やり子供を生ませ、(これ、多分、性行為だけの意味じゃないとおもう。アイツが精液を採られていると言う話もあったことから、かなり具体的に自分の子供を生ませるだけのことをしたのだと思う)、母親の恋人を殺したのだ。    母親が死んで泣いている子供に、性の相手として女を差し向けてトラウマを植え込み・・・そら、女の人抱けなくなるだろ・・・それでも飽きたらず、今度は男娼を無理やり抱かせた。  アイツが他の人間に不必要に心を奪われないようにコントロールするために。  何でそんなことを?  わからない。    そこまでして、なぜ息子をコントロールする必要がある?  そうやってコントロールしていた息子が執着してる、何故かわかんないけど執着しているオレをこの人はどう思っているのか?  好意とは・・・思えない。  考えてたらムカついてきた。  コイツ、ひどい奴だ。  ひどいヤツだ。  アイツの孤独もアイツが愛されなかったのもコイツのせいだ。  猫から貰った愛情を大切に抱きしめながら生きている、大きな身体の少年のことを思った。  許せない。  思わず睨んでしまったかもしれない。    しまった。  ヤバいヤツなのに。  ヤバいヤツなのに。              

ともだちにシェアしよう!