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ラブソング~ピュア
彼女を乱暴に犯したのはあの時だけだ。
息絶えた恋人の側に行きたがる彼女を、寝室へつれていき犯した。
服を破き組み敷いた。
だが、殴りもしてない。
その必要もなかった。
彼女にはもう抵抗する力さえなかった。
やさしいキスも何もなく乱暴に押し入り、何度も突き上げ、何度も中で放った、が、それ以上のことはしていない。
酷い言葉もない。
首を絞めもしてない。
痛めつけもしてない。
殺すまで責めてもいない。
そんなことは彼女とはしない。
そんな相手はいくらでもいる。
彼女にはしない。
彼女はもう声さえ上げず、涙さえみせなかった。
人形のように無抵抗だった。
それでも犯した。
自分のモノだ。
自分のモノだ。
男だって知っている。
最初から。
彼女が自分を愛したりはしないこと。
そして、何より、自分のようなモノを誰も愛してはいけないことを。
それは妻の恋人が言った通りだった。
物のように人間を所有することしか男には出来ない。
初めて出会った雨の中で、ふれた彼女の指の暖かさ。
優しい声。
真っ直ぐな眼差し。
自分の知らない世界に、自分は決して生きられない世界にいる彼女にあの一瞬で焦がれた。
冷たい雨の中の彼女が傘を握らす指は、抱き捨ててきた女たちの身体では気にしたことのなかった体温があった。
その温かさが欲しかった。
でも、いくらだきしめても。
その温かさは自分の芯には届かない。
それでも。
この温かさが欲しかった。
男は泣いていた。
泣きながら彼女を貪っていた。
その涙には何の価値もない。
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