4 / 45

第4話・もしかしておまえ、三毛か?

☆  人間の組織のことはよくわかんねぇけど、ここにいる人達がオレに教えてくれた。  なんでも仙蔵(せんぞう)さんは裏社会に名を馳せているらしい。  跡取りの息子さんがここの離れにいるんだって。  奥さんは居たには居たんだけどこの辺りを牛耳る仙蔵さんが怖くなって息子さんが産まれるなりすぐに逃げたらしい。そしてその息子さんも好きな女性が身籠もった後、お孫さんを置いて去っていったんだって――。  ――だからかな。  仙蔵さん、オレが怖くないのかって()いたのは、さ……。  仙蔵さんは怖くないよ。  だってオレは一度ならず二度も命を助けて貰ったから。  ――それで今、太陽がちょうど真上にきているところで、仙蔵さんの用事が終わったらしく、会わせたい人っていうのを連れてきた。  その人物を見て驚いた。  オレの知り合いに人間はいねぇ。  だけどさ、目の前には知ってるはずのない人間がいたんだ。 「三毛(みけ)? もしかして三毛なのか?」  茶色い髪の毛とクリッとした大きな目は猫だった頃と少しも変わってない。  信じられねぇ!  まさか、三毛もオレと同じように人間になっていたなんて!   「うわあ、茶虎(ちゃとら)なの? うわあ、うわあ、すごく嬉しい!!」  三毛もオレを見るなりすぐにわかったみたいだ。  ああ、どうしよう。  オレってばてっきり三毛も両親みたく車にはねられて死んでしまったのだとばかり思っていた。  もう会えないとばかり思っていたのに、まさか三毛に会えるなんて!!  すげぇ嬉しい! 「オレも! オレ、ひとりきりになっちまったから……あの、仙蔵さん! 引き合わせていただいて本当にありがとうございます!! すげぇ嬉しい!」  嬉しくて視界が歪む。  後ろにいる仙蔵さんに笑いかけた。 「――そうか、やはりお前さん達は知り合いだったか。雰囲気が似ているからまさかとは思ったが――」  仙蔵さんが静かに頷いた。 「三毛、いるか?」  感動の再会をしていると、ふと低い声が聞こえてきた。 「あ、(りゅう)サン! おかえりなさい!!」  やって来るなり三毛を抱きしめるそいつは、明らかに三毛を想っている。 「それでどうだった、荒居組(あらいぐみ)の奴らは――」 「総長が死んだってのはどうやらデマではなさそうだ。今のところ跡目争いで縄張り争いどころじゃないな。こっちに喧嘩を売ってくるどころじゃなさそうだ。しばらくは大人しくしているだろう」 「そうか、偵察ご苦労だったな」  初めて見る男の人と仙蔵さんはすげぇ難しい顔をして話している。  オレは二人を交互に見ていると、どうやら話しは終わったらしい。  やって来たそいつは新参者のオレを見るなり眉を潜めた。 「誰だ?」 「あ、オレ茶虎っていいます」  ペコっと頭を下げたのは、三毛を想っているひとだってわかったからだ。  オレの弟分の三毛を可愛がってくれるならこいつも悪い奴じゃねぇ。  あと、なんかこの人、仙蔵さんに似てる。  鋭い射貫くような鋭い目にすっと通った鼻筋。少し大きな薄い唇はへの字に曲がっている。角張った輪郭。いや、それだけじゃねぇ。広い肩幅も、力強い腕も――。  もしかするとお孫さん、なのかな。 「茶虎はね、ボクの親友でお兄ちゃんみたいな人なの。茶虎もね、お父さんとお母さんが死んじゃって、だから一緒に育ったんだよ?」 「そう、だったのか……生き別れの人に会えて良かったな」  三毛の言葉に少し警戒心を解いたらしい。  そいつは肩の力をほんの少し抜いた。  三毛は今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。  腕の中で抱きしめられて嬉しそうに話している。 「俺は龍だ、よろしく」 「龍サンね、ここの若頭サンしてるんだよ?」  三毛はまるで自分のことのようにえっへんと威張ってみせる。  本当に龍サンのことが好きなんだな。  オレは、その龍サンに向かってよろしくお願いしますと頭を下げる。 「じゃあね、お祖父(じい)ちゃん。茶虎、また明日!」 「ああ、またおいで」 「またな」  ――良かった。  三毛、元気そうで。  去っていく二人の姿を眺めていると、龍サンと楽しそうに話す三毛の頬がほんのり赤く染まっているのが見える。  同性でも、あんなふうに想い合えるんだな……。  だけどオレの恋は多分、実らない。  年齢があまりにも違いすぎる。  仙蔵さんは大人で、オレは子供。釣り合いなんてとれねぇのは知ってる。  それに、オレはあんなに可愛げはないから――。  三毛はいいな。  両想いになれて――いいな。  オレは肩を並べて仲睦まじく歩く二人の背中を羨ましげに見つめた。 ☆第4話・もしかしておまえ、三毛か?☆

ともだちにシェアしよう!