5 / 45

第5話・報われない恋だってもう知ってるし。

☆ 「どうした?」 「えっ?」  なにが?  去っていく三毛(みけ)(りゅう)サンの背中を見ていると、仙蔵(せんぞう)さんが静かに口を開いた。  二人がいなくなって静かになった部屋。  時計の秒針がカチコチ音を立てている。  突然話しかけられて、ビクンって身体が震えた。 「何か悲しいことでも思い出したか? 亡くなった親御さんのことか?」 「別に何もないよ? どうして?」  父さんと母さんがこの世界からいなくなったのは三年前のこと。  だからもう悲しくもない。  そりゃ、たしかに寂しくないかって言われたらそうでもないけどさ。  でも亡くなった命を今さら思ってもどうすることもできない。  仙蔵さんはどうしてそんなことを()くんだろう?  顔を上げて、端正な顔立ちを見る。  そうしたら、さ。  仙蔵さんの骨張った指が伸びてきた。  ビクッ!  肩が震えたのは仙蔵さんが怖いからじゃない。  伸びてきた指がふいにオレの頬をなぞったからだ。  だけどそれで今の自分の状態がわかった。  オレ、泣いていたんだ。  その理由は――この恋が失恋するから。  だから悲しいんだ。  自分の気持ちを思い知らされる。 「ここは俺とお前さんだけだ。別に我慢しなくていい」  鋭い目付きなのは変わらない。  だけど、なんていうのかな。  オレを写すその目はとても愛情に満ちているように見える。  虎目石みたいな、そんな強くて優しい雰囲気の目をしている。  なんで……。  なんでこんなに優しいんだよ。  オレが好きな男性(ひと)は、オレがどんな気持ちでここにいるかなんて知らない。  こんなに優しくされて。  抱いた恋心がますます膨れ上がっていくのがわかる。  オレ……どうしたらいいんだろう。  こんなに好きなのに――。 「っひ……」  とうとう抑えきれなくなった涙は、次から次へと目から零れ落ちていく……。  身体から力が抜けていく……。  ポスン。  分厚い胸板がオレを支えてくれた。  ほらな?  仙蔵さんは全然怖くない。  ポンポン。  ポンポン。  背中を撫でてくれるその大きな手が好き。  オレを抱きしめてくれる力強い腕が好き。  優しくて力強い、アナタが好きです。 「っひ……っふ」 ☆第5話・報われない恋だってもう知ってるし。/完☆

ともだちにシェアしよう!