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番外・仙蔵の思い。

 ☆ 「よし、次! 甘い!」 「ぐえっ」 「まだまだっ!」 「ぐはっ!」  今日も騒がしい。  何事かと庭に足を向ければ、細身の男が恰幅のいい男共を次から次へと薙ぎ倒していく。  細い身体から伸びる肢体。着物の合わせ目からちらつく胸に乗ったふたつの蕾はぷっくりと膨れて赤く色づき、しなやかに伸びる細い太腿には、俺がつけた赤い痣が散っている。  しなやかな肢体から繰り出される連擊。目を細めて見ていると、そこらかしこから、ほうっと息をつく声が聞こえた。  見惚れているのは俺だけじゃねぇ。周りにいる子弟達も、だ。  まったく自分の色香にも気づかねぇとは、茶虎の奴にも困ったもんだ。 「騒がしい。何してやがる!」 「ぐみぢょ~!!」  俺が声を上げれば、子弟達は顔を上げ、涙やら涎やら鼻水やらでいっぱいだ。  世間から恐れられる龍虎組の幹部達とは思えねぇな……。  呆れるのを通り越して笑いが込み上げてくる。  なにせそんな奴らを泣かせているのは俺の茶虎だ。  こんなに誇らしいことは()ぇ。  誰の手にも負えない暴れん坊。  一度こうと決めたことは意地でもやり通す頑固者。  触れれば火傷しちまう。    そんな茶虎だが、俺の側だとしおらしくなるから尚さら可愛い。  俺に抱かれる時なんて可愛い声で鳴くからたまらない。  涙を浮かべ、俺を求めて喘ぐ。  茶虎を見ていると、いっそう可愛らしく思えてくる。  愛おしさが胸に溢れる。 「なんだ、龍虎組の幹部がそろいも揃ってだらしねぇ面しやがって!」  俺は茶虎への愛おしさを抑え込み、声を荒げた。 「あにさんが、容赦ねぇんです」 「も、限界でさぁ……」 「茶虎……お前は何をしてるんだ」 「強くなるために特訓してもらってるんじゃん!」 「茶虎、勘弁してやれ。こいつらじゃあお前の役不足だ」 「だけどっ! オレ、もっと強くなりたい!!」  拳を握り締め、真剣な眼差しで俺を見つめ返してくる。  茶虎は恐らく、俺が剣銃で撃たれる姿をもう見たくないのだろう。  それは一ヶ月前。  茶虎を餌に、荒居組に呼び出されたことがあった。  銃口を向けられた時、茶虎は身を挺して俺を守ってくれた。  あれが堪えたんだろうと思う。  強くならなくても茶虎は十分強くなった。  この狼狽える子弟達を見れば明らかだ。  それなのに、さらに上を目指そうとするのは、俺を失うのが怖いからに違いない。  俺が茶虎の前から姿を消すとでも思っているのだ。  有り得ない。  こんなにどっぷり嵌っちまったんだ。  茶虎を手放すなんて有り得ねぇ。  とはいえ、頑固者の茶虎に口で説明してもわからねぇだろうなあ。  だったら……。 「だったら俺が相手してやろう」  うんと可愛がって、俺には茶虎だけだということを知らしめてやろう。 「えっ?」  突然の発言に狼狽える茶虎を横抱きにして、俺は寝室へ急ぐ。 「あ、あの。仙蔵さんっ!?」 「お前らご苦労だったな。ゆっくり休め」  子弟達がゴクリと唾を飲んだ。  まったく、自分がこんなにも周りを惑わしてることにさえ気づかねぇなんて――。  この暴れん坊(茶虎)がどれほど皆に愛されているか。当の本人は知りもしねぇ。  そして俺がどれほど想っているのかさえも……。  本人が自覚するまで、うんと鳴かせて教えてやるとしよう。  この華奢な身体が俺を覚えるまで延々と、だ。 ☆番外・仙蔵の思い。/完☆

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