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茶虎、三毛と奈良漬けで酔う。(後編)
彼らは襖やらをぶち破って気絶する。
ガッタン、バリバリ!
「ぎゃああ、あにさんっ!」
「もうかんべんしてくだせぇっ!!」
大きな物音と幹部達の泣き声にも似た悲鳴が闇夜に大きく轟く。
そんな中だ。彼らが最も恐れていたことが起きてしまうのだ。
……ガラガラ。
玄関の戸口が開く音がした。
「今戻ったぞ」
(この声はーー)
「げっ! 組長と若だ」
「うそだろ? 明日戻って来るんじゃなかったのかよ!」
焦る一同は硬直し、身を固める。
そして……。
「茶虎、一人にして済まなかったな」
「三毛、悪かったな、思ったよりも会合が早く終わった」
ガタンと大きな音をたてて障子が開く。
そこに見えたのはやはりとも言うべきか、還暦を迎えても尚凛々しさをもった男と、若く雄々しい青年がいた。
(――あ)
(やべっ!)
(なんでっ? 戻って来るの明日じゃなかったのかよ?)
「…………」
「…………」
二人の男はこちらをジッと見ている。
「――――」
茶虎を数人で取り押さえているこの姿。
しかも繰り広げられた激しい攻防により、茶虎の肩から着物がはだけている。
胸の飾りのひとつが明るい照明に照らされている。
パンツが消え、露わになる下肢はかろうじてなんとか隠れているといったところだろうか。
見ようによっては大勢で寄って集って茶虎を襲っているように見えはしないだろか。
「てめぇらあっ! 茶虎になにしてやがるっ!」
青筋立てて怒る男はまさにその二つ名の通りだ。
"去 なしの仙蔵"はどす黒い瘴気を放つ。
おぞましい殺意が静寂を包み込む。
仙蔵から立ち込めるこの殺気と瘴気だけでも殺されそうだ。
「っひいいいいいいっ!」
(死ぬ、死ぬ!!)
(殺される!!)
「若、助けっ!」
幹部の一人が龍に助けを求めるが、静かに眠る三毛を横抱きにして颯爽と去っていく。
「ええええええっ! 俺ら無視っ!?」
「ち、ちがうんでさぁ、組長、話しをきいてくだせぇ」
「俺らはただ、組長や若がいなくて悲しんでるお二人を放っておけなかっただけで、なぁ?」
「そうそう! 元気付けたかっただけなんでさあっ!」
必死に弁解する幹部らは、もう冷や汗ものだ。
(俺ら、とばっちりで死ぬの?)
死を覚悟する幹部ら。
――そんな中。
「あ、せんぞうさんら~」
茶虎がむっくり起き上がった。
寝ぼけ眼の目を擦る。
「せんぞうさん、らぁいすき!」
両手を伸ばして仙蔵に抱きついた。
そして自らの唇を彼の唇に押しつけ、
っちうううう。
吸い上げる。
「!」
ちぅうううううっ。
茶虎のキス攻撃は収まらない。
そして仙蔵が動いた。
華奢な腰に逞しい腕が回る。
仙蔵は茶虎の舌を捕らえ、深く口づけをした。
「っふ……んうぅう」
茶虎は頬を朱に染め、悩ましげな声を上げる。
朱に染まった頬はより赤みを増した。
ピチャ。
「っふ、っふ、んぅ……」
絡みつく舌は滑りを帯びている。
閉じる事さえできない口からは唾液が溢れ、繊細な顎を伝う。
(もっと欲しい)
茶虎は強欲に差し出された舌に貪りつく。
口角を変えてより深く口づけを味わった。
「っふ、んぅ、っふぁ……」
ピチャ、ピチャ。
水音が静まり返った居間に響く。
……クリ。
「ん、っふぅん……」
剥き出しになった一方の胸にある飾りを仙蔵が弄れば、いっそう悩まし気な声が上がる。
華奢な腰が揺れる。
自らの下肢を雄々しいその身体に擦りつける。
(ごくっ)
(あにさん、色っぽい)
一同は指を咥え、二人が深い接吻を繰り返しているその様を穴があくほどに見ていた。
すると仙蔵は周囲の目に気が付いたようだ。
腰を上げ、口づけたまま茶虎を横抱きにした。
二人はそのまま居間から去っていく……。
遠ざかって行く足音。
一同は張り詰めていた息を吐いた。
へなへなと腰を落とす。
(……た、助かった)
(死ぬかと思った)
「……けどさ、あにさん、やっぱ色っぽいな~」
「ああ、すげぇ綺麗だった」
「はあ~」
龍虎組幹部達の慕情は増すばかりだった。
☆茶虎、三毛と奈良漬けで酔う。/完☆
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