31 / 45

目、覚めて。(前編)

「ん……」  なんだろう。  すごくあたたかい。  優しくてあたたかで。  守られてる感じがする。  だけどオレはこの感覚は知っている。  仙蔵(せんぞう)さんといる時や抱きしめてくれてる時、いつもこんな感じ。  この人が傍にいてくれるかぎり、誰にも負けない。もっとずっと強くなれる。  そんな気持ちになるんだ。    ……だけど。  それは思い違い。  だってオレ、仙蔵さんに嫌われてる。  一緒に寝てくれなくなった。  だからこれは夢。  現実じゃない。  ……仙蔵さん。  オレ、傍にいたいよ。  離れたくないよ。  仙蔵さんのためなら離れてもいいって神様に言ったけど、でも本当はね。  嫌だよ。  ずっと傍にいたい。  夢の中の仙蔵さんなら、いいよね。  ……ギュ。  未練がましく仙蔵さんの着物を掴めば――。  あれ?    おかしいな。  着物の感覚がある。  すごくリアルなんだけど……?  びっくりして目を開けると、目と鼻の先に仙蔵さんの顔がすぐ近くにあったんだ。 「おはようさん。いい朝だな」  目尻に小皺を浮かべて、すごく優しい顔で微笑む仙蔵さんがいた。 「え、仙蔵さん? あ、熱は?」 「ああ、龍から聞いたよ。夜通し看病してくれたんだって?」  ――っつ。  そこで思い出したのは、傍にいたくないオレと同じ部屋に居たっていうことだ。  仙蔵さんにとって一緒に居たくない相手と同じ部屋に居るなんて、どんなに煩わしいことだろう。 「ご、ごめんなさい!」  嫌われたくない。  もうこれ以上、仙蔵さんに嫌われたくないよ……。  オレは胸板を押して、離れようとする。  ――なのに。  仙蔵さんの腕が腰に回ってる。 「あ、やだ。ごめんなさい。ごめんなさい!」  離れなきゃいけないのに……。  半ばパニックになりながら謝り続けるオレに、だけど仙蔵さんは首を傾げて訊ねてきた。 「何を謝る必要がある?」 「だって……オレを避けてたのに。結局傍に居座っちゃって……」  傍にいたいなんて。  どこまでも押しつけがましいオレ。  自分のことばっかり考えて、ほんとイヤになる。 「……っひ」  じわじわ涙腺が崩壊していく。  視界が滲んでくる。 「一晩中看病してくれてたんだろう?」  看病なんてそんな献身的なもんじゃない。  オレはただ、仙蔵さんの傍にいたかっただけ。  邪な心しかない。 「っ違う。傍に居たかった……それだけ」  どうしよう。  泣きたくないのに。  これ以上、嫌われたくないのに……。  ポロポロ涙が溢れる。 「ただ、それだけ……」  ごめんなさい。 「ごめ、なさ……ごめ、なさ……」  泣くのは止めよう。  余計に煩わしいと思われちゃう。  涙、必死になって止めようとするのにどうしよう。止まらない。  嫌わないで。  嫌いにならないで。 「っひ、っひ……」  唇を引き結んで泣くのをやめようと頑張る。 「も、やだ。お願い、嫌わないで……っひ、っく」  ごめんなさい。  オレはひたすら謝り続ける。 「茶虎(ちゃとら)!」  そんなウジウジしてるオレを、仙蔵さんはぎゅううって抱きしめた。 「茶虎、お前は何か思い違いしてねぇか?」 「っ、してなっ……」  思い違いなんてしてない。  今だって仙蔵さんに想われてるなんて。  思ってない。  思い上がってない。

ともだちにシェアしよう!