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目、覚めて。(前編)
「ん……」
なんだろう。
すごくあたたかい。
優しくてあたたかで。
守られてる感じがする。
だけどオレはこの感覚は知っている。
仙蔵 さんといる時や抱きしめてくれてる時、いつもこんな感じ。
この人が傍にいてくれるかぎり、誰にも負けない。もっとずっと強くなれる。
そんな気持ちになるんだ。
……だけど。
それは思い違い。
だってオレ、仙蔵さんに嫌われてる。
一緒に寝てくれなくなった。
だからこれは夢。
現実じゃない。
……仙蔵さん。
オレ、傍にいたいよ。
離れたくないよ。
仙蔵さんのためなら離れてもいいって神様に言ったけど、でも本当はね。
嫌だよ。
ずっと傍にいたい。
夢の中の仙蔵さんなら、いいよね。
……ギュ。
未練がましく仙蔵さんの着物を掴めば――。
あれ?
おかしいな。
着物の感覚がある。
すごくリアルなんだけど……?
びっくりして目を開けると、目と鼻の先に仙蔵さんの顔がすぐ近くにあったんだ。
「おはようさん。いい朝だな」
目尻に小皺を浮かべて、すごく優しい顔で微笑む仙蔵さんがいた。
「え、仙蔵さん? あ、熱は?」
「ああ、龍から聞いたよ。夜通し看病してくれたんだって?」
――っつ。
そこで思い出したのは、傍にいたくないオレと同じ部屋に居たっていうことだ。
仙蔵さんにとって一緒に居たくない相手と同じ部屋に居るなんて、どんなに煩わしいことだろう。
「ご、ごめんなさい!」
嫌われたくない。
もうこれ以上、仙蔵さんに嫌われたくないよ……。
オレは胸板を押して、離れようとする。
――なのに。
仙蔵さんの腕が腰に回ってる。
「あ、やだ。ごめんなさい。ごめんなさい!」
離れなきゃいけないのに……。
半ばパニックになりながら謝り続けるオレに、だけど仙蔵さんは首を傾げて訊ねてきた。
「何を謝る必要がある?」
「だって……オレを避けてたのに。結局傍に居座っちゃって……」
傍にいたいなんて。
どこまでも押しつけがましいオレ。
自分のことばっかり考えて、ほんとイヤになる。
「……っひ」
じわじわ涙腺が崩壊していく。
視界が滲んでくる。
「一晩中看病してくれてたんだろう?」
看病なんてそんな献身的なもんじゃない。
オレはただ、仙蔵さんの傍にいたかっただけ。
邪な心しかない。
「っ違う。傍に居たかった……それだけ」
どうしよう。
泣きたくないのに。
これ以上、嫌われたくないのに……。
ポロポロ涙が溢れる。
「ただ、それだけ……」
ごめんなさい。
「ごめ、なさ……ごめ、なさ……」
泣くのは止めよう。
余計に煩わしいと思われちゃう。
涙、必死になって止めようとするのにどうしよう。止まらない。
嫌わないで。
嫌いにならないで。
「っひ、っひ……」
唇を引き結んで泣くのをやめようと頑張る。
「も、やだ。お願い、嫌わないで……っひ、っく」
ごめんなさい。
オレはひたすら謝り続ける。
「茶虎 !」
そんなウジウジしてるオレを、仙蔵さんはぎゅううって抱きしめた。
「茶虎、お前は何か思い違いしてねぇか?」
「っ、してなっ……」
思い違いなんてしてない。
今だって仙蔵さんに想われてるなんて。
思ってない。
思い上がってない。
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