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目、覚めて。(後編)
仙蔵さんに嫌われてるのはちゃんとわかってる。
ちゃんとわかってるよ。
だけど、
でも……。
「も、知ってる。っから……」
今から別れを告げられるんだ……。
オレの身体が、飽きたから……。
オレって可愛げもねぇし。
色気もねぇ。
おまけに誰よりも暴れん坊だし。
三毛みたいに可愛くもねぇ。
いつまでも好かれているなんて思わなかった。
だけど、振られるのはもう少し先かな、なんて悠長に考えていた……。
ああ、もしかして好きな女性ができたのかな……。
だって仙蔵さんはすごく格好いい。
優しくて、凛々しいし。
仙蔵さんの好い人は……きっとすごくお淑やかで優しくて。綺麗なんだろうな……。
オレの役目は、もう終わり。
玩具は飽きたら捨てられる運命だ。
玩具 なんて、もういらない……。
仙蔵さんには必要のない代物。
でも……。
だけどっ!!
「茶虎!」
「……や」
お願い。
それ以上、言わないで。
決定的な言葉なんて聞きたくない。
オレは必死になって両耳を塞ぐ。
「茶虎!」
オレの手がひとつの手に縛られた。
仙蔵さんの力はずっとずっと強い。
「……いや。嫌だっ!」
聞きたくない!!
これ以上、何も聞きたくないっ!!
「いいや、お前は何もわかっちゃいねぇな」
仙蔵さんにとってオレがどんなに煩わしい存在か……。
思い知らさないで。
やめて!
「――っひ」
オレは覚悟を決めて目を閉じる。
だけどやっぱり怖いものは怖い。
肩が縮こまってしまう。
どうしてオレじゃいけないのかと泣き叫びそうになる。
これ以上惨めになりたくなくて、必死に唇を噛みしめる。
「俺がどんなにお前を欲しているかを、か?」
「えっ?」
……なに?
「その顔はまったく違うことを考えていたな?」
えっ?
仙蔵さんは何て言った?
オレを、欲してる?
ぱち、ぱち。
瞬きするたびに、目から大粒の涙が零れ落ちる。
「ほらな」とそう言って、仙蔵さんは苦笑を漏らした。
「オレ。仙蔵さんが一緒に寝たくないって思うくらい嫌われてるんじゃ……」
「風邪を移したくないがための行為だったんだが……?」
えっ?
「えっ? あれ?」
「お前は嫌われてるかもしれない相手を一晩中看病したってぇのか?」
「あのっ!」
えっ?
オレ、嫌われてるんじゃないの?
「まったく、本当にお前には困る。こんなにハマらせて俺をどうしたいんだ」
「嫌いじゃ、ないの?」
「嫌う? こんなに可愛いお前を、か?」
「振られ……ない?」
「お前を振る奴がいたなら、そいつは馬鹿だな」
これはゆめ、なのかな?
仙蔵さんにまだ愛想尽かされてないなんて……。
顔を上げれば、真剣な眼差しがオレを見下ろしている。
「茶虎、愛してる」
「――!」
仙蔵さんがオレのことを?
愛してるって言った?
「……うそ。嘘だ……そんな……」
誰がこんな暴れん坊を好いてくれるだろう。
オレは玩具。
仙蔵さんとは同性だし。
だから恋愛なんて長続きしない。
いつかは飽きられるって思ってる。
「俺が嘘を言うようなタマに見えるか?」
「――っつ」
ああ、どうしよう。
どうしよう。
オレ、もう……。
……ぽろ。
また、涙が溢れた。
「ほら、もう泣くんじゃねぇ。こんなに真っ赤にしやがって。目ぇ、痛てぇだろう?」
「だって、だって……っひ、っひ……」
こんなの嬉しすぎる。
「よしよし、本当にお前は可愛いなぁ」
ポン、ポン。
大きな骨張った手がオレの頭を撫でてくれる。
「こんなに好いているお前を捨てるわけがねぇだろうが……」
「っひ……っひ……」
仙蔵さんはその日、オレが泣き止むまでずっと抱きしめてくれたんだ……。
**目、さめて。・END**
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