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第一章・6

「大翔くんの家庭教師のことですが……」 「その件ですが、先生」  すっ、と組長は居住まいを正した。 「あと1年、せがれをよろしく頼みます」 「え……」  先生のおっしゃりたいことは解ります、と組長は座卓に両手をついた。 「しかし、これほどこいつが。大翔が熱を入れて勉強し始めたのは、先生がいらしてからなんです」 「ですが……」  お願いします! と、背後で大声がした。  征生だ。  このままでは、座卓に土下座しかねない組長の代わりに、征生が畳に額を擦り付けていた。 「大学受験。大切な人生の岐路。大翔さんのそれをお任せできるのは、先生だけなんです!」  あぁ。  まただ。  僕は、この人の言葉には、本当に弱い。 「……解りました。できる限り、協力させてもらいます」 「ありがとうございます!」  征生と組長の声が重なって、響いた。  話の中心にいるはずの大翔は、こっそりビールを飲んでいた。

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