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第四章・3
ブランチは、近場のカフェで。
楓は、行きつけの店に征生と共に入った。
「モーニングセットが600円。やたら安いな」
「こういう庶民の店って、新鮮でしょう」
セットのクロワッサンをちぎりながら、楓は笑った。
「征生さんは、朝から焼肉とか食べてそう」
「いくら俺でも、そこまでは」
ヨーグルトを掬って食べる征生は、奇妙な顔をしている。
「薄いな、こいつは」
「格安、ですから」
「楓、金はあるだろう。もっといいものを食べればいいのに」
「ええ。でも、何となく使いづらくて」
楓の家庭教師料は、月100万円だ。
こんなに受け取れません、と焦って断った楓だが、結局征生の土下座に負けたのだった。
「それにしても征生さんは、よく頭を下げる人ですね」
「それで事が円く収まるのなら、こんな頭いくらでも下げるさ」
「謙虚なんですね。『実るほど、首を垂れる稲穂かな』ということかな」
「そんな御大層なものじゃない」
全ては、大翔さんのためだ、と征生は言う。
「あの方を立派に。一人前にして差し上げるのが、私の務めだからな」
「はい……」
その大翔くんに抱かれ続ける、僕。
そしてそれは、征生さんとこんな関係を結んだ後もきっと続くんだろう。
「どうした?」
「ん、何でもありません」
楓は、残りのパンを口に放り込んだ。
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