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第2話

 僕は解放された。  目隠しはされたままだったけれども  射精させられた以上のことはされず、  僕は安堵した。   抱きかかえられ、風呂に入れられ清められた。  それほど浴室まで距離がないということは、  マンションなのだろうか。  それともホテル?  全身を丹念に洗われはしたが、出来るだけ身体にさわらないように洗ってあるのはわかった。  ただ、髪を洗い、乾かす時だけ、その指には執拗さがあった。  何度となく触れ、吐息が髪に感じられた。  男の息遣いが荒くなったのはその時だけだった。  だが 、僕はまだ裸のままで。  ベッドに優しく下ろされた。  それがひどく心細い。  まだ身体は動かないし。  薬、なのだろうか。  動かない身体に不安もある。  男が僕の手首をつかんだ。  僕は震える。  男は握りしめられた僕の手のひらをそっとひろげ、その上を指でなぞった。  何?  僕は男が手のひらに字を書いていることに気づいた。  僕に声を聞かせるわけにはいかないのだろう。  「くすりはもうすぐきれる」  そう男は書いた。  「めかくしもはずす」  そして男は僕の目隠しを外した。   男は仮面をかぶっていた。  能面みたいな、表情のない仮面。  明るい、清潔な部屋が見えた。  監禁されているとは思えない外からの光が差し込む部屋だった。  ベッドのそばには窓があり、カーテンは開け放たれ、そこから木々が見えた。  ここは、おそらく山の中だ。  そして絶望する。  人間を監禁しているのに窓にカーテンをかける必要もない位の山の中だとわかったから。  でも僕は知ることを諦めない。  浴室までの距離などから、小さな家だろうと僕は推測する。   僕は仮面の男を見つめる。  仮面の向こうのに何かが見えないかと。  仮面の目にあけられた穴から覗く目には何の表情も見えない。   「僕をどうするつもり」  声だけは自由にでる。  男は身動き一つしなかった。  答えるつもりはないのだ。  ただ、また男は手のひらに書いた  「くすりがきれるから、にげないようにする」  そして、男はベッドの下からソレを取り出した。  鎖と、環。  「嫌、やめて!!」  僕は叫んだが、男は優しく僕の両手両足に鎖のついた環をはめ、鍵をかけた。  鎖はベッドの横の壁に埋め込まれるようにつながっていた。  清潔で素朴な部屋の中でそれだけが異様だった。  男の言うとおり、 すぐに薬はきれた。  僕は動けるようになった。  ただ、鎖につながれている。  鎖はかなり長く、ベッドからも降りられ、部屋の前にあるトイレまでもいけた。   なんなら、窓の外にあるテラスにも行ける。  ただ、予想通り、ここは道さえない山の中だった。  おそらく、電気も自家発電だろうし、携帯電話の電波も届かない。  僕は全裸のままだ。  鎖をなんとかしても、服無しで山の中をさ迷うのは自殺行為だ。  今は夏だから、ちょうど良いが、山の中の夜は寒い。  室内でも夜にこれでは困る。  いや、あの変態はそこまで考えてくれているだろう。  僕の身体を傷つける気はないようだし。  犯されるのは時間の問題だろうけど。  僕は自分の身体を抱きしめた。  あの執拗な指の感覚を思い出したのだ。  胸を這い回る熱さ。  あの指は、僕のアソコにまで。  僕は首を振る。  アレもきっと薬のせいだ。  あんな風に懇願したのも。アイツが飲ませた何かのせいだ。  あんなに人の指が熱いなんて。  僕はソレについては考えないようにする。  どうせ、またアイツは触りにくる。  それより、ここをどうやって脱出するかについて考えよう。  脱出したところで。  僕はチラリと考える。  もう、僕の価値はなくなっているかもしれないのだろうけど。  このままだとおそらく僕は無垢ではなくなるから。  それを考えると絶望したくなる。  でも、とにかく僕は脱出する方法を考えないと。  僕を閉じ込めたこの狂った男が、いつまで僕を生かしておくかもわからないからだ。  昨日に引き続き、男にベッドまで運ばれてきた食事を食べさせられる。  一口一口口まで運ばれ、コップも口元に当てられ飲まされる。  甘やかされているようにも思えるが、 違う。  食器や何かを僕が手に入れないようにしているのた。  脱出のための道具を与えないためだ。  食器を運びだし、男は戻ってきた。  ドアが閉まる音  男は僕のいるベッドに座る。  男から熱気が伝わる。  僕はベッドの上で後ずさる。  「やめて」  一応言ってみる。  もちろん男は止めたりはしない。  もう抵抗はしなかった。  脚を掴まれた時も、ただビクリと震えただけだ。  下手に抵抗して怪我したら逃げられない。  男が手にしたリモコンで部屋の電気が消される。  真っ暗だ。  山の中だから、本当の闇だ。  何も見えない。  男が闇の中で仮面を外した音がした。  暗闇の中、男は丹念に、僕の脚を撫で始めた。  向かうようにベッドに座った男の両脚が僕の右脚を挟みこんでいた。  男が僕の足の親指を咥えたのがわかった。  熱い感触が指先に生まれる。  そして脚が丹念に撫でさすられる。  舌が親指を舐め上げ、踝から太腿まで撫でさすられていく。  指と指の間さえ舐めていく。  そんなところを舐められているのに、僕の身体はビクリと震える。  まるで違うところを、舐められているような。  「変、態」   僕は声をあげる。  太腿から危ういところまでのわずかな距離は男は触れようとしない。  そこには決してふれない、  しゃぶられる指の熱さと、ただひたすら優しく撫でさすられる感触に身体が震える。  触られているのは片足だけなのに。   座っていられなくて、倒れ込んだベッドのシーツを後ろ手に掴む。  僕は恐怖する。  ここで目覚めてから、緩やかにもだえ苦しむまで与えられた感触を思い出して。   またあんな何時間も、生殺しのような快感を与えられるのは嫌だ。  ワケがわからなくなる  「いや、そこは嫌、そんな風にしないで。ツライ」  僕は懸命に頼む。  男がまたかすかに笑った。  男の唇が乳首に触れた。  舌もそこを這う。  はん、  吐息が漏れる。  明確な感触は、僕に確実な快感を与えてくれた。    あああ  不意に甘く、噛まれ、僕は叫ぶ。  さらに強く噛まれる  強烈に気持ちいい。  嫌、   僕は怖くなって叫ぶ。   だけどまた、指で緩くなでさすられる。  男の唇がまた脚に戻り、触れるか触れないかの接吻を繰り返す。  僕はいつのまにか自由になった両手で(鎖にはつながれているけれど)男の顔を僕に押し付ける。  そんなものでは足りなくて。  男はまた笑い、僕の唇を指でなぞる。  何度となく。  それは謎かけだった。  僕は謎をとき、思わず叫ぶ。   「お願い、もっと」  男は僕の言葉と同時に、僕の胸強くもみしだき、乳首を噛み、吸い上げた。  乳首を指先でつまみ押し潰す。  脳がやけるような感覚。  なに、コレ。  刺激が強すぎて、僕には受け入れられない。    「ダメ、やっぱりダメ!!!」  僕は泣きながら叫んだ。  やめて、やめてと叫ぶ。  だが、もう男はやめてくれず、胸を愛無しつづけた。  甘噛みされる度に、僕は声をあげ、乳首を摘ままれる度に腰を男にこすりつけた。  吸い上げられ、舌でころがされ。  僕は、僕は下半身に触れられもしていないのに、声をあげて射精したのだった。  僕は情けなさに泣いていた。  胸だけで、射精するなんて。  嫌だこんなの。  僕を抱える男の息が粗い。  僕は恐怖する。  まだ終わってないんだ。  ズボン越しに男の固いもの が腹に当たる。  「嫌だ 。どけ」  僕は男の分厚い胸を押しのけようとした。  男は粗い息のまま僕を抱きしめる。  耐えるように、僕の肩を男が噛む。  「痛い」  僕は声をあげた。  男は慌てたように僕の肩から顔を離す。  それは、初めての男がみせた余裕の無さで、僕を怖がらせた。  男は息を整え、僕の身体を指でなぞる。  放出された精液を、その指でからめとり、指は下腹部へ向かう。  僕は身体を強ばらせる。  またアソコをあの指で弄られるのかと思ったのだ。  あの淫らな動きを身体が覚えている。  男が触ったのはそこではなかった。  そこを通り過ぎ、身体の裏のその穴を男は触れた。  僕は本気で怯えて、叫ぶ。  「やめろ」  そこは嫌だ。  押しのけようとするが片手で抱きしめるだけで男は抵抗を奪う。  力が違いすぎる。   僕とコイツでは体格ヶ違いすぎる。  僕は貧弱な自分の身体を呪った。  男の指がその部分を撫でる。  そっとそっと。  何度も円を書くように。  そして、前にも触れてくる。  やわやわとこすりあげる。  また僕の中に何かが灯り始める。   「嫌」  僕は本当に怖い。  もう覚えてしまった快楽とは違う、後ろへの感触は恐怖でしかなかった。  ただ、男はそこへは優しくなでさする以上のことはせず、前をこすりあげその手で僕をイカせようとしてた。  じらし、刺激し、また後ろをなでさすり、指が竿にもどり淫らに動く。  快楽に抵抗する気力もなくなった僕を、片手で前を弄い、もう片方の指で穴をひたすら撫でさする。  ただ、男のそこへの執拗さだけが僕に刻まれた。  僕はただただすすり泣き、根元をおさえられ射精を禁じられることに耐える。  僕はいつか行われることを認識し、怯えたまま男のなすがままにまた射精した。  飛んでいく意識の中、男の声を聞いた気がした。   「まだだ。今はまだ。でももうすぐ」  それがとてもつらそうにきこえたのはやはり気のせいだったのだろうか。  

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