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第3話

 男は暗闇でしか仮面を外さない。  まだ明るいときに行為に及ぶ時、男は僕の両手を縛る。  僕が仮面に手をのばさないように。  光の中で男が僕をその舌や唇でなぶりたい時は、男は僕に目隠しをする。  決して、その顔を見せない。  男は光の中で、僕とするのが好きなようだった。  僕の乱れる姿を恍惚と見つめてた。  どんどん淫らな恰好をさせられた。  でも、仮面を外す夜の闇の中の男はたがが外れたような怖さがあった。  仮面のない夜には唇や舌を男は存分に使うのも、いやらしくて、怖かった。  ここに連れてこられて 何日になるのだろう。   夜は鎖を短くされ、ベッド からは出れないようにされた。  布の一枚も与えられない。  逃がさないつもりだ。  風呂に入れられ、洗いあげられ、ただ、日中の鎖の長さはかなり長くなり、台所までは行けるようになった。 もっともテーブルまでだ。  包丁やナイフ、フォークにはふれられない。  本は与えられるようになった。  何故知っているのかわからないけれど、男は僕の好みのSF小説を何冊か持ってきた。  男はもう一つある部屋に僕といない時はそこにいる。  男の声はまだ知らない。  たまに出す笑い声だけだ。  その声を思い出すと身体が熱くなる。    その声は僕がおかしくなった時に 男が出す声だからだ。  男の指や舌が僕を追い詰めた時に。  男の声も顔も知らない。  でも、その指や舌、その腕や脚、その胸の感触等はもうこれ以上ない位に知っていた。    昨日は何時間もあの穴を責められていた。  男は僕の前はあまり触ろうとしない。  後ろの穴や、乳首に執拗に執着する。  僕は触れられなくても、立ち上がるようになってしまっていた。  しかも、ああ。  前に触られなくてもイケるようになるのは時間の問題だ。  昨日もだ。  穴の周りを指で撫でられ、ローションをたらされ、少しずつ指を入れられた。  丹念に舐められさえして、僕はその舌に声をあげた。  信じられなかった。  そんなところを舐めるなんて。  でも、あれはあの感触は。  嫌、やめてそれおかしくなる、  僕が口走ってしまうほどだった。  苦痛がないよう、丁寧に行われるそれは、耐え難いほどつらかった。  苦痛ではないからだ。  出し入れされ、指を増やされる。  ある場所で電気が走るような感触がある。  おかしくなる場所をみつけられ、指を入れられ刺激され続ける。  立ち上がって、ダラダラ 体液をにじます僕のもの。  男はさわってくれないし、自分でも触らせてくれない。  「いっそ、無理やりしたらどうだ」   僕は思わず泣きながらさけんだ。   その時も男は笑った。  前を弄り、僕を射精させ、解放してくれた。  男はつらくないのかと思う。  でも、わかっているのは、男が僕の準備を整えているということ。  僕の身体を丹念に変えていると言うこと。  なんでそんなに面倒くさいことをするのかはわからないけれど、男が僕に挿入することだけは分かっていた。   挿入以外の何もかもをもう教え込まれているけれど。  愛撫という愛撫はもう知っている。  唇にキスだけは男はしようとしなかった。  僕の性器に唇を近づけはしなかったし、まだ僕に挿入しようとはしなかった。  でも、その夜の男はたががはずれた。  肌や乳首を唇や舌でなぶることはあっても、僕の性器には手でしか触れてこなかった。  後ろの穴を なめあげ、そこに舌さえ入れてさえするのに。  最後に射精させるために性器に触れるくらいで、むしろ最近は触れないで射精させようとさえしていた。  その夜の男は性急に僕の身体を貪った。  余裕の無さがあった。   「今日こそ突っ込まれるのかな」  僕は覚悟した。  それは僕の価値がなくなることを意味していた。 今の僕は色々やられてはいても、一応清童だ。  精を注ぎ込まれたわけでもなく、精を注ぎ込んだわけでもない。  ある意味、それ以上に淫らなことをしている気もするが。  例え、今、男に指を入れられて、腰をふってしまうとしても、もう、後ろの穴の刺激だけで射精できるようになっていても、まだ一応 清童なのだ。  資格は失っていない。  まだ。  男の体液をまだ受け入れていない。  だから、男が僕のそれを咥えた時、僕は怯えた。  男は今までそんなことをしなかったからだ。   暖かい口腔の感触 、舌の刺激は凄まじく、僕はすぐにも放ちそうになった。   駄目。  駄目。  叫ぶ。  放ってしまうかと思った。  でも耐える。  ダメだ。コレは精を人に放つことになる。  僕は資格を失う。  僕は男がすることから逃げるために今まで本気で抵抗したことはなかった。  どうせ、この身はどうにかされるために生まれた身、なぶられることへの恐怖はあったけど、ずっとあきらめてきたことだったからだ。   精をこの身体に放たれること以外はどこかで構わないと思っている僕がいる。  だけど今、本気で拒否している。  「お願い、ダメ」   僕は男の顔をそこから必死で引き剥がそうとした。  耐えられない位気持ち良かった。  暗闇の中なのに、男がこちらを見たのを感じた。  男の行為がエスカレートした。   舌が手が僕には理解出来ない動きをさらにし、僕は耐えられず、声を上げ続ける。  「ダメ、出ちゃう。ダメなのに」  僕が泣くのは快楽だけのせいではない。   僕の価値が失われる。  僕の存在の意味なくなる。  なのに何故こんなにも気持ちよいんだろう。    口の中があつい。  すわれながら唇で扱かれる、舌が絡みついて。  だめ・・。だめなのに  気持ちい・・  僕は絶望した。  もう無理だった。   そして、放った。  絶望は快感を増幅させた。  人に向かって精を放ちながら、僕は今までにないような快楽を覚えた。  身体を切り裂き中身を出されるような快感だった。  震えながら全てを出し切った後、僕は泣いた。  これで、終わり。  もう、僕にはいくところもない。   町は僕を受け入れない。  僕は全てを失った。  もう・・・どうしようもない。  この男にすきにさせてやれば良い。  何でもすれば良い。  突っ込もうが何だろうが。  「どうにでもしろ」  僕は身体を弛緩させた。  もう、どうでも良かった。  男が声をころして笑った。  そして、僕の手を男の胸に当てた。   そこにはネバネバした体液がついていた。  男の唇が僕の指を咥える。  男の口腔は暖かく、すくなくとも、放たれた精はなかった。  僕は安堵する。  どうやら、男は出る瞬間、僕を放してくれたようだ。  僕は誰かの体内に放つことはなんとか避けれたようだった。  でも、いずれ、いずれ、男は僕の中に精を放つだろう。  多分、この男は僕が何なのか分かってこうしている。  身体を裏返され、ローションをたらされ、執拗に後穴を弄られ 、声を殺せず呻きながら、僕は確信する。    尻だけを高くあげた姿勢の卑猥さが自分でも嫌だ。  指はもう三本入るようになっている。  弄られる度に、電気が走るような場所を男はもうすっかり理解している。  射精したばかりのそこが、立ち上がる。  よだれが出る。  僕は言葉にはならない何かを喚き続ける。  そこに、いれられてはいけない。  でも、でも、そこに何かが欲しくてたまらなくて。   指なんかじゃないもっと確かなものが、  「いや・・いや、ダメ・・ダ・・メ」   首を振り続ける。  後ろだけだけではなく、前もいじって欲しいのに、それは与えられない。  思わずそこへと動く自分の手を止められる。  代わりに胸へと自分の指を誘導される。  前ではなく、胸と後ろの穴だけでイケと言うのだ。  何でも良い。  僕は夢中で自分の胸を弄る。  男がしたみたいに、指で乳首を挟みつまみつぶし、薄い胸をもみしだく。  「あ、あ、」  声が出る。  快感 を追う。  乳首を指でなぞり、男がしたように刺激する。  でも足りない足りない、男に慣らされた身体はこれだけでは足りない。  男に指を突っ込まれている尻を振る。  もっと強く当たるように。  男 の息が荒くなる。  指を引き抜き、決して脱ごうとはしなかったズボンのチャック がおろされる音がした。  僕は夢中で胸を弄りながら、それでも叫んだ。  「駄目、入れちゃダメ!!」  イキたくてたまらなかったけれど。  男が抜いた指の代わりに自分の指を突っ込む。  弄る。  男のように良い所に届かなくてもどかしい。  少しでも良いところに当てようと、弄りながら尻を振る。  入れられるのは嫌だけど、イキたくてしかつなかった。  尻をふりながら穴に指をいれ、胸を弄る。   後少し、後少しでイケる。  ああ、声が出て喉が上がり、背がそる。  男が呻き声をあげた。  僕の指をのけて、自分の指を激しく出し入れし、刺激する。  僕の指を払いのけ、男の指が乳首をつまみあげる。  押しつぶし、こねられる。  その刺激は自分でするものとは比べものにならなくて。  そこ、そこ、そこ  僕は叫んだ。  脳内に閃光が走り、僕は出す前に身体が痙攣した。  出す前にイッたのだ。  そして、その後に遅れるように射精した。  手放す意識の中、男の声が聞こえた気がした。  「暗くては良かった。見えていたら、もうムリだった、こんなエロいの・・・」  男はひどく苦しそうだった。      

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