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第25話
アイツは酷い男だ。
呆然としている間に、行為が終わった。
さっさとアイツは自分の身支度を整え、彼を残して行ってしまった。
いや 、崩れ落ちそうになっている彼を支えて、服を整えてやる程度には優しいのかもしれない。
彼を壁にもたれさせて、服のボタンをとめていた。
とめる前に、彼の滑らかな胸がチラリと覗いて、私は思わずドキリとした。
私は男性には興味がなかったはずだが。
でも、それだけだった。
アイツはまだ立っているのがやっとの彼を置いて行ってしまった。
私はアイツに声をかけそびれた。
恋人同士の甘い言葉や余韻はその二人には感じられなかった。
酷い男だ。
私は思った。
彼が壁にもたれたまま俯き、泣いていたからだ。
さっきまで、こんなところで平然とセックスしていたのが嘘のように、彼は繊細に見えた。
彼は私のお気に入りの学生で、視点も面白く多角的で、この学問に向いていた。
理路整然とした話し方をする硬質な印象とは別に、意外とそそっかしく、スタイリッシュな格好はしていても、どこか田舎の青年の純朴さが見え隠れして、好感が持てた。
彼はゲイであることを公言していた。
「もうオレは偽りたくないんです」
そう私に彼が言った時、彼の強さに感銘を私は受けた。
彼が優秀であることや、彼の華やかではないが整った容姿や、隙のない格好はそんな彼を守る盾でもあるのだなと思った。
「だから、優秀でいますし、身なりには気をつけるようにしてます」
優秀なのはともかく、オレ、本当は外見どうでも良いタイプだったんですけどね。
彼が笑ったのを覚えている。
強い子だ、そう思った。
その強い彼が泣いていた。
彼はこんな通りでセックスするようなタイプではない。
アイツは間違いなくそのタイプだ。
私と飲みに行ってしばらく席に帰って来ないと思ったら、そのバーのトイレに知り合ったばかりの女の子を連れ込んで、その後、涼しい顔で戻ってきたことは何度もあるからだ。
アイツが彼にこの行為を強いたことは間違いなかった。
私は彼に声をかけるかどうかを少し悩んで、そのまま立ち去った。
彼の誇りを優先したからだ。
アイツは酷い男なのは間違いないが、彼はアイツに恋をしている。
零れる涙がそれを証明していた。
こんな姿を見せたくないだろう。
それに何より、
恋を止めるのは本人にしか出来ないからだ。
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