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第26話

 その子は思いの外、落ち着いていた。  あんな酷い目にあったにも関わらず、目覚めても取り乱しもしなかった。  ただ、手足を見て、呟いた。  「鎖がない」  不思議そうに。  あるはずものがないかのように。  私はとりあえず、この子との話が終わったらアイツを殴らないといけないと思った。  昨日からずっと怒り過ぎてアイツを殴ることを忘れていた。  私は怖がらせないように話かける。  「やぁ、どうだい気分は?」  彼は綺麗なオレンジがかった目を私に昨日向けた。  静かな目だった。  被害者の目ではなかった。  彼は、可愛いくないとダメ、というアイツが執着しているだけあって、人形のように綺麗な顔をしていた。  20才だと聞いていたけれども、高校生位に見えた。  「あなたは?」  この子は尋ねる。  「説明が難しいな。とにかく、二度と君には怖い想いはさせないよ。約束する」  私は優しく話しかける。    「怖い?」  この子は不思議そうに聞き返す。  記憶がとんでいるのだろうか。  無理に聞き出すのは良くないか。  私が悩んでいるとこの子は呟く。  「僕はあんな風にされるために生まれて来たから平気だよ。あんな風にして殺されるために僕は生まれてきたから。」  この子の言葉に私は言葉を失った。   「姉様が見えない何かにやられていたのはあれと同じことなんだ。こちらの意志などお構いなしに、快感を与えられ、殺される。今回は僕は殺されなかったし、挿入されられなかったけど」  でも、これで何も分からないで殺されるのではなく、何が起こるのかわかって殺されることになったから良かった、と彼は笑う。  「あの人が挿入しないでくれて良かった。これで祭には出れる」  この子はなんでもないように笑う。  「僕達は何があっても、受け入れなければならないんだ」  捧げられる為に育てられた花嫁がそこにいた。

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