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第29話
俺はこれほど怖かったことはなかった。
俺は部屋の前で、ウロウロしながら教授が出てくるのを待っていた。
アイツは俺のことを何て言ったのだろうか。
俺のことを今何て思っているのだろうか。
ドアがあき、教授がでて来た。
難しい顔をしていた。
教授が言った。
「あの子が君と話がしたいと言っている」
俺は耳を疑った。
俺はもう二度と近寄るなと、言われると思っていたからだ。
俺がアイツにした行為は最悪だったからだ。
あのまま殺していたかもしれない。
本当に。
話をさせてくれるのか。
それだけでもうれしくて。
ホッとして俺は床に座り込んだ。
「その前に言っておきたいことがある、まず、あの子はおまえを怒っていないし、怖がってもいない」
教授の言葉の意味が俺には分からなかった。
殺すところだったんだぞ、俺は。
「床じゃなくて椅子に座れ、話しておきたいことがある。あの子と話をする前に」
教授は言った。
教授の顔は複雑だった。
「あの子は性的なものを受け入れるように育てられている。それには暴力も含まれる」
教授の言葉の意味が分からない。
「なぶり殺されるために生まれて来たから、おまえがしたことは大したことじゃない、彼はそう言ったんだ」
教授の言葉に俺は戸惑う。
「入れないでくれて助かった、これで祭りに出れるとも」
教授が続ける言葉が理解出来ない。
「彼はそういう風に育てられているんだよ、その時に従順に殺されるように」
教授はため息をつく。
「あの子の価値観は歪んでしまっている。良かったな。おかげであの子は君を恨みも怖がりもしていない」
嫌みったらしく教授は言った。
だが、俺が最初に感じたのは安堵だった。
嫌われないですんだことだった。
「 」
俺は無言で涙を流す。
人に嫌われることがこれほど怖かったことはかった。
「人の気持ちなど気にもしないで、散々酷いことをやってきた君が、な、随分変わったもんだ。別人のようだ」
教授の言葉には言外の意味もあるようだった。
「話はここからだ。君はあの子を助けたいのか?それとも、あの子をなぶり殺す神に代わってあの子をなぶりたいだけか?殺さないから自分の方がマシだと」
君と神の差はあの子が死ぬか死なないかだけじゃないか。
教授の言葉に俺は動揺した。
監禁し、なぶり、逃げれば殺そうとしたのだ。
「あの子は歪んでいる。死ななければならない未来に適応したんだ。だからおまえを憎まない。
でも、もしあの子が助かったならば、なぶり殺される必要のない世界に生きるようになったなら、
あの子はおまえを憎むようになるかもしれない。おまえが自分にしたことの意味がわかって」
教授が何を言いたいのかは分かった。
「ちゃんと助けてやれ。たとえ憎まれても。おまえがあの子の新しい神になるな」
その言葉は俺の胸に刺さった。
俺は俺のしたことからは逃げられない。
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