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第31話
その人はひどく遠慮がちに、僕の枕元に座った。
そして、ただ、僕を見つめる。
やはり、姉様に似ていた。
何にも言わない。
ただ、その熱をはらんだような眼差しに僕の方が困ってしまう。
「どうも」
僕は身体を起こして頭を下げる。
呻く。
身体のアチコチが痛いのだ。
ほろりとその人の目から涙が零れた。
綺麗な顔が一瞬歪み、その人は顔を覆って泣き続けた。
僕は男の人がそんな風に泣くのを見たことがなかったのであっけにとられた。
「俺のせいだ」
その人は震える声で言った。
ごめん。ごめん。ごめん。
その人は泣きながら繰り返す。
その姿が綺麗で思わずみとれた。
僕は正直戸惑う。
泣いて、嫌だと言っても、僕を責めてたてていた人なのかこの人が。
嫌だ嫌だとあれだけ言っても、散々僕を喘がせ、何度もイかせた人なのかこの人が。
「えっと、僕は大丈夫ですから」
なぜが僕がこの人を慰めはじめていた。
「姉様の本物の弟なんですね、道理でよく似てる」
僕はその人に微笑んだ。
何故か微笑んだだけなのに、その人は固まってしまった。
目覚めた時にそばにいた髭だらけのおじさんが、色々説明してくれたことを思いだした。
「僕の資格をなくすことで救ってくれようとしたんですね。でも、僕も知らなかったな。僕の許可なく僕にいれた人が死ぬっていうのは」
それは僕達花嫁には聞かされていない。
僕達は、その日まで、他人と気を交換することを禁じられているだけで。
資格を失ったらどうなるのかも知らなかった。
生きられたのか。
ただ、この話を聞いてしまった時点で、この話は無効になる。
もう僕にはその道はない。
「助けてくれようとしたんですね。ありがとうこざいます」
ありがとうと言われて、その人は余計に強張った顔をした。
この人は姉様の願いを叶えてくれようとしたのだ。
姉様が死ぬ前に僕が救われることを願ったと知り、胸の奥が痛む。
姉様。
姉様。
僕の姉様。
「僕達を救おうとしてくれて、ありがとうこざいます。僕達だって、救われたいと思ったことがないわけじゃないんですよ」
僕達花嫁は、未来のない毎日を生きてきた。
でも、もし、未来があったらと、考えたことがなかったわけではないのだ。
僕達はずっとずっとずっと捧げられてきたのだ。
そこから逃げられることなど考えたことはなかった。
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