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第35話

 「お兄さん、お兄さん」  女の子がオレを揺さぶってくれたおかげで目が覚めた。  しばらく気を失っていたようだ。  痛みに呻く。  「血がいっぱい出てるよ」  女の子が泣く。  オレはパーカーを赤く黒くじわじわと染め上げていく、それを見ていた。   血だ。    「本当に撃ったんだ」  撃つ姿をちらりと見た。あれは三軒隣りのお兄さんだった。  猟友会に入っていたなそう言えば。  この町の【猟】がどんなものかな、とオレは皮肉っぽく思った。  町を舐めてた。  町はオレを疑っていた。  町の内部を疑うことのない町が疑ったなら、オレはもう異物ということになる。  異物は排除される。  血を止めなければ。   パーカーを脱いで、畳み、それをシャツの上から強く押し当てた。  「リュックの中にロープがあるからとってく  女の子が怯えながらも素直に取り出してくれる。  パーカーを傷口にきつく巻きつける。  止まらなくても、これで少しは出血が抑えられるはずだ。  女の子の目からいくらでも涙が出てくる。  代々の花嫁達と同じで、綺麗な子だ。  この子、本当はなんて名前だったっけ。  そう、名前を取り上げられるまでは。  結婚して一年程の夫婦の間に生まれたんだ。  今、その夫婦の間には3人の子供がいるんだっけ。  彼らにこの子はもう捧げられたモノだ。  オレはその子の奪われた名前を思い出した。  「   」  オレはその子の名前を呼んだ。  その子が驚いたようにオレを見つめた。  「オレが絶対助けてあげる。だから、歩くよ」  オレはヨロヨロと立ち上がった。   猟友会には犬がいる。  血の匂いをたどられる。  少しでも逃げなければ。  「   」  オレが名前を呼び手を差し伸べると、女の子は大きな目を見開いたまま、握り返した。  オレは辺りを見回すが、集中力がもたない。  オレは女の子にライトを渡し 、黄色のリボンを結んだ木を探してもらう。  「あったわ」  「そこを目指していこう。でまた次のリボンを探して」   オレ達は歩いていく、  「   って私の名前?」  女の子が聞いたら、オレはこたえた。  「そうだよ、君から町が取り上げた。だから 俺がかえしてあげる」  「いい名前ね、ありがとう。私この町から兄様と出ることが出来て、祭りに出なくてもいいから、大人になったらお兄さんと結婚してあげる」  女の子がオレを見上げて言った。  オレは微笑む。  「ありがとう。光栄だな。でも、オレはゲイで、その上ど変態だからよした方がいいよ。君は素敵な女の子だから」  女の子はオレの言葉の意味がよくわからず キョトンとしていた。  「君の兄様だけで十分だ。すごい変態で酷い男に捕まるのは」  オレは呟いた。    

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