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第41話

 オレはなんとか起き上がった。  いつもと違って、身体は清められていたし、ドロドロになったシーツは剥ぎ取られていて、オレはベッドの上に服をキチンと着せられて、横たえられていた。  いつも、外でオレの中に中出しして、そのまま平気で帰る人がこれをしたのか。  オレは驚く。  あの人はベッドの足元に座ってオレを見ていた。  何故だろう。  犯されたのはオレなのに、この人の目は酷くヤラれた者の目だ。  オレが鏡で何度となく見たオレの目だ。  「満足か?、コレで」  あの人は言った。  酷く傷ついているように見えた。  あの人を傷付けることが出来るとは思ってもみなかったオレは驚く。  「思い知ったよ。俺は酷い人間だ」  あの人はため息をつく。  「ちょっとはマトモになろうと思ってもこんなもんだ」  自嘲する。  「オレとしたのがそんなに嫌だったんですか」  オレは胸の奥に痛みを感じる。  「嫌じゃなかった。最高だった。今までしてきたセックスの中で一番だった」  この人は正直だ。  オレに嘘だけはついたことがない。  「でも、それは、オマエをアイツだと思ってやってたからだ」  また、オレの胸に冷たいモノが落ちる。  「オレじゃダメってことですか。抱くだけでも!」  オレは思わず、詰るように言ってしまう。  身体だけの繋がりでも、それでも、何かはあるんじゃないかって思っていたんだ。  愛や恋じゃなくても。  「ダメなわけない。オマエはいい。本当にいい。何度となく言ってるだろ。エロくて可愛い。オマエ相手ならいくらでも酷いことが楽しく出来る」  あの人がオレの髪に手をやり撫でる。  性的な意味のない接触に慣れず、オレは戸惑う。  「オレが昨夜やったことはな、オマエをオマエでなくしてしまったってことだ。オレはオマエを殺して抱いてたんだよ。オレは。オレは、一度だって、オマエをオマエ以外のモノにしたことだけはなかったのに」  あの人はため息をついた。  「オマエ、自分になりたくて外へでたんだろ」  あの人はオレを見つめながら言う。  「町では、許されなくても、それでも自分になりたくて、外へ出てきたんだろ」  なんで、この人はここへ来てこんな。  こんな、こんな。  いや、一度だって、この人はオレをオレでない何かとしては扱わなかった。  酷いことは沢山しても。  「そんなオマエを、俺は殺してアイツに変えて抱いた」  あの人は酷く悲しそうだった。  「俺はちょっとはマシなもんになりたいと思ったんだよ。アイツに会って。酷いヤツでもアイツは許してくれるけど、好きになってはくれないから」  でも、  とあの人は言った。   「今の俺は、今まで一番最低だ」  その言葉に泣いたのはオレだった。  「違う、最低なのはオレだ」  最低なのはオレもそうだったから。  オレは、あの人が好きなオレが好きだった。  だから、だから、あの人の言うことを何でも聞いた。  オレは町で殺されてきた。  オレでない者として生き続けてきた。  ゲイではない振りをして。  それが嫌で、嫌で。  オレはオレになりたくて、都会に出てきたのに。  オレはオレじゃないモノになりすまして、この人に自分を抱かせた。  この人を好きになったのは、この人が初めてオレをオレとして見てくれたからだったのに。   オレがオレを殺したんだ。   町じゃなくて。  オレが。    涙を流すオレの肩をあの人が抱いた。  単に肩を貸す以上の意味のない行為が、セックスよりも心地良かった。  しばらく泣いた後、  「あの子に好きになってもらえないんだ?」  オレは尋ねた。   あの人の肩に頭をのせて。   「身体だけは受け入れてくれそう。挿入させてくれないけど」  あの人はため息をついた。  「身体だけ?いい気味だ」  オレは笑う。  「好きになってもらえないだろうな」  あの人はため息をついた。  「でも、俺はちょっとでもマシなヤツになりたい」  だから花嫁達を助けたいのだとあの人は言った。  殺され続けている花嫁達を。  殺され続けている花嫁達に、オレは自分を重ねた。      

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