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第43話
「ここでいいのか」
俺は聞く。ここから町まではかなり距離がある。
「うん。近寄りすきるとあなたが捕まっちゃう」
アイツが頷いた。
「行くのか、やっぱり」
俺の言葉にアイツは微笑んだ。
「うん。こうしなくちゃ」
助手席から降りようとするアイツを、背後から抱きしめる。
「ちょっと」
アイツが抗議する。
「少しだけ。少しだけ、こうさせてくれ」
俺は懇願する。
アイツは大人しくなる。
柔らかい髪に口付ける。
細い肩を抱きしめる。
首筋の匂い。
俺のものだ。俺の。
俺は白い首筋に唇を何度となく当てる。
「明後日、全部終わったら、俺と出かけてみないか?こんな町を出て、どこかへ。どこでもいい。お前の好きなところに」
こんな酷い口説き方したことはなかった。
コイツ相手だとこうなってしまう。
散々、抱いた相手なのに。(挿入こそしてないが)
「いいよ」
素直にコイツは頷いた。
あまりにもあっさり承諾されたので、口説けてはいないことを俺は知る。
「行かなきゃ。僕が行かなきゃ祭りは始まらない。そして僕が終わらせる」
そっと俺の手を自分の身体から外し、
アイツは俺を見た。
キレイなオレンジのような茶の瞳。
「ありがとう。僕達を助けに来てくれて。長い長い間、誰もいなかったんだ。あなただけが、僕達を助けようと思ってくれた。僕ではなく、僕達を」
アイツの白い顔が近づき、俺の唇に自分の唇をそっと触れさせ離れた。
「またね」
そして、呆然としている俺を置いて、彼は道路へと走りはじめた。
町へ続く道へ。
祭りに出るために。
そして、祭りを終わらせるために。
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