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第45話

 彼は痛々しかった。  腹から血を流し倒れている彼を見つけ、その彼に飛びかかろうとしている犬を見つけた時、私は迷わず手にしていたボーガンで、犬を撃ち抜いた。  犬が一声泣いて、地面に落ちた。  暗視スコープも、ボーガンもこんな目的のために購入したわけではなかった。  現代文明から離れた社会を調査する時の、食料調達のための狩猟用、夜間の環境調査用だ。  だが、これほど購入していて良かったと思ったことはなかった。  彼が死んでいたかも知れないからだ。  私は彼に駆け寄る。  「教授、なんでこの暗闇で動けるんです?」  彼は尋ねたがそれどころではない。  「話は後だ」  私は彼の腹に巻かれていたパーカーを外し、車から持って来たバスタオルに変えて、また圧迫して縛る。  そして血にまみれた彼のパーカーと死んだ犬を、頭上の木の上に置いた。 「何してんですか?」  彼は呻く。 「とりあえず、仲間の匂いと君の血を頼って、奴らがここにきてくれるように」  気休め程度のごまかしだが、しないよりはマシだろう。     この暗闇だ  彼の血と仲間の匂いに、犬がここを誘導しても、木上にあるパーカーや犬の死骸にはすぐには気付かないだろう。  ここに足止めできれば。  私は彼を担いで、歩く。  「なんで助けに来たんですか。言ったでしょう、最悪囮になってでも女の子だけは逃がすって。オレはこの町の人間だから殺されることはないからって」  彼は助けられても不満そうだ。  「でも殺されかけた。そうだろ」  私の言葉に彼は笑った。  「確かに。でも、あの子を逃がしてくれなきゃ、オレ、死ぬ甲斐がない」  私は彼に怒りを感じていた。  どうして、どうして。  「君は馬鹿だ。あんな男のために、ここまで」  そんなにアイツが好きなのか。  あんなに酷く扱われてきて。  「コレは違う。あの子を助けるのは、あの人のためではなくて、オレのため」  少し、ぼんやりしながら彼は言った。  「たくさんの誰かの幸せのために、一人が殺されるなんて、あってはいけないこと なんだ。オレもずっと目を閉じてきたんだ」   急いで車へと歩きながら、私は彼を抱きしめたかった。  こんなにも生真面目で、懸命な彼が愛おしかった。  「10年前の祭りの時はオレは何も分からない子供だった。でも今は違う 。オレはこんなことは絶対に認めない」  そういう彼に私は頷く。  「全くだ、終わりにしよう」  明日は祭り。  全てを終わらせなければ。

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