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第53話

 「なんだよ、コレ」  俺は暗い穴を30分ほど這い進んだ先にあったものに驚いた。  穴から出ると広い空間が広がっていた。  それは巨大な洞窟だった。  滑らかな岩で構成された洞窟には、光が差し込んで青く輝いていた。  天井に、大きな穴がある。  そこから光が差し込んでくるのだ。  水音が凄い。  俺の前には滝が見えた。  飛沫が俺の顔を濡らす。  地下水の滝?  岩肌から叩きつけるような水が、洞窟の中にある湖にながれこんでいた。  その水量はとてつもなく、俺は地上でもこんな滝はみたことがなかった。  磐座だ。  俺は確信した。  巨木や巨岩だと決めつけていたが、滝もまた、磐座とされることがある。  つまり、ここが磐座なのか。  むしろこれは、磐座というより、神奈備・・・。  地下にある湖、そして滝、それは凄まじい迫力だった。   俺は何かを探した。  何か、だ。  神とこの世を繋ぐ印のような。  俺と滝の間には湖があり、青く光る水の中には何も見えなかった。  湖までは、かなりの高さがあり、俺は洞窟の上の方から湖と滝を見下ろしているようだった。  俺は立っている場所から寝そべり、俺が立つ岩場から湖までに何かがないかを探した。  俺は、明らかに人の手による刻み目を見つける。  それは湖の縁にまで続き、滝にむかって消えていた。   滝の裏に何かある。   俺は確信した。    刻み目を掴みながら移動すれば、あそこに行けそうだ。  ボルダリングみたいなものか。  ただ、俺は自分の左手を見た。   犬に噛まれた左手を。  この手では壁がつかめない。  おそらく、この湖に落ちれば、滝の水流に巻き込まれ、酷く冷たい水の中に何度となくひきこまれ、俺は死ぬだろう。  でも、俺は決意する。  どのみち、選択肢などないのだ。

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