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第55話
片腕と、両脚のみで行われるボルダリング(壁登り)は、過酷だった。
滝の下であり、直接滝をくぐるわけではないとしても、叩きつけられる水の中をくぐり抜ける時は何度も指が岩から離れるかとおもった。
滝の裏側に転がるように入った時、俺は自分が生き延びたのだと、さすがにガッツポーズをとったのだが、それは、そこにあるものを見た瞬間やめた。
滝の裏側にはそう、100人位は集まれるような広さの洞窟になっていた。
俺が予想していたのは、祭祀するためのしめ縄や、祭壇やそういった印だったのだが。
「嘘だろ」
俺は呟いた。
そこにいたのは、串刺しになった【神】だった。
巨大だった。
4メートルはある背丈の人型のミイラが、腹を石て作られた杭で、洞窟の床に止められていた。
人型というのは間違いかもしれない。
手足が二本ずつという意味では、人間と同じだったが、その手足はあまりにも長すぎたし、
歪に歪んだ仮面のような顔には干からびた目が三つあったからだ。
人間に似ているところなどどこにもなかった。
干からびた、土色の肌。
服を身につけていなかったが、人間なら性器がある場所には何もなく、性別もわからなかった。
俺は恐る恐る近づいた。
そして気づく。
「生きている」
俺は思わず呟いた。
ソイツはかすかに呼吸していたのだ。
石の杭は細く長く、人の手で作られ削られたものであるのは間違いなかった。
その、横たわるソイツの前には祭壇のようなものがあり、朽ちた素焼きの器があった。
おそらく、それは遠い昔で。
祭りの儀式はここで行われていた時代もあったのだろう。
串刺しにされた神。
神をここに封じたのだ。
神なのか化け物なのかわからないけれど。
彼によると、この町の伝承では神は毎日、人々をころして食べていたのだと。
ある日、違う神に諭され、改心し、10年に一度花嫁を娶るだけになり、この土地を守っているのだと。
良くある伝説だ
こういった改心する神の伝承は各地にある。
恐らく、神なのか化け物なのかはともかく、昔の人々はコレをここに封じる必要があった。
そして、花嫁を捧げ続けていることから、コレを生かす必要もあった。
食べることも、犯すことも、捧げるという意味ではおそらく、同じ意味なのた。
命をその内に取り込むと言う意味では。
花嫁達のおかげで、コイツはまだ生きている。
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