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第57話

 神殺しには条件がある。  神を殺す資格の有るもの。  そして、神を殺す道具を持つもの。  そのどちらの条件も俺にはなかった。  今回、俺が神を殺すことは想定していなかった。  神殺しではなく、神が彼方からこちらに来ることを止められれば、そういう考えだったのだか。  神は此方こちらにすでに実在している。  この杭を抜けばどうなるのか、俺には予想もつかなかった。  俺に殺せるものではない。  しかし、このままではアイツが死ぬ。  俺は考えこんでいた。    〈伏せて〉    吐息のような声が耳元でして、俺は反射的に伏せた。  姉の声だった。  爆音がした。  俺の目の前の固そうな岩に穴が空く。  猟銃か!!  俺は振り返った。  滝の水音が大きすぎて足音が聞こえなかった。  猟銃を構えた男が立っていた。   町の人間か。  おいおい、祭りの日、町の人間は山に来ないんじゃなかったのか。  次の狙いを定めようとする前に、俺は飛びかかる。  猟銃は良い武器だ。  ある程度の距離から隠れて撃つ分には。  この距離なら、構える前に攻撃出来るんだよ。  しかし、相手の男はいい判断をしていた。  咄嗟に銃を捨てたのだ。  俺は思わず転がった銃に反応して、それを追いかけてしまった。  相手から目を離して。  相手に背を向けて。  ザクッ  背中に熱さが走る。  斬られた。  俺は悟る。  転がるようにして第二の攻撃を避けた。  銃を片手に向き合う。   相手は片手に鉈をもっていた。  大丈夫。  服の上からだから、皮を斬られた位だ、多分。  今度は俺が猟銃を投げた。  男はそれに目もやらない。  俺から目を離さない。  俺より優秀じゃないか。  銃は滝の方へと落ちていった。  鉈、か。  こっちは素手か。  俺は構える。  本来なら少しばかり武器をもっていたところで、俺の優位は変わらないのだが、俺の左手は動かないため、  正直、少しばかり不利だ。  だけど 、そうも言ってられないのだ。  俺がなんとかしないと、アイツが死んでしまう。  背中が熱い。  だが、動ける。  じりじりと、間合いを男は詰めていく。  鉈を持つ手の動きに気をつければいいだけだ。  攻撃のパターンは限られている。  俺は自分に言い聞かせる。      

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