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第63話

 俺は石の杭を【神】から引きぬこうとした。  コレを引き抜く結果がどうなるのかはわからなかった。  毎日人を食らっていた神との伝説がよぎる。  おそらく、遥か昔、記録もない程昔。人々は生きていける土地を探していたのだ。  そして、この地を見つけた。  山奥の、外敵から遮断されたそして豊かな土地。  ただそこには【神】がいた。  恐ろしい、人を喰う【神】が。  神を殺そうとしたのだろう。   ここに住むために。  それと同時に知ったのだろう。  殺してしまえば、この土地は変わってしまうと。  そのためには【神】を生かし、尚且つ封じる必要があった。  彼らは最小限の犠牲でこの土地をそのままに、ここで暮らす方法を思いついたのだ。  それが、【花嫁】。  そして、仲間を殺す罪を全員で被ることが人々の結束を強くしたのだ。   犠牲。  罪。  それは、幸せな町を作り上げたのだ。  俺は引き抜こうとするが、左手が使えたとしても、引き抜けるようなものではない。  「畜生!!」  こうしている間にもアイツが!!  嫉妬と絶望が俺を襲う。   渾身の力で動かそうとするが、全く動かない。  「どうすりゃいいんだ」   俺は叫んだ。  「お前封じられていたくないだろ!!」  俺は【神】に向かって怒鳴った。  しかし、干からびた神はかすかに呼吸したまま横たわるだけだ。   「畜生!!」  俺は杭を殴りつけた。  どうすることも出来ないのか。  俺の垂れ下がったままの、左腕から血が流れ落ちた。  傷口が開いたのだ。  ポツン。   神の身体に落ちた場所が色を変えた。  土色の肌が金色に変わる。  血の落ちた所だけが、生気をおびていく。  「血?」  血で蘇る?  いや、捧げろってことだ。  この【神】は自分が自由になるということにさえ、何かを捧げることを望んでいる。  何か?  俺か?  俺は投げ捨てたはずの鉈が足元に転がっていることに気付く。     「お前か」  お前だったんだな。  【神】か。  俺は悟る。  命を捨てて飛びかかってくる犬達。  命を気にせず襲ってきた男。  どんな命でも良かったのだ。  俺であっても、犬やあの男であっても。  ここで命が失われることこそがコイツの望み。  お前、【神】がアイツらを操っていたんだな。  【神】が命を吸っている。  花嫁だけでは飽きたらず。  「俺にも捧げろってか」  俺は鉈を拾い上げた。  今は俺が操られている。  でも、構わない。  「命はやらない。俺はアイツを抱かなきゃいけないからな」  俺は鉈を掴んだ。  「   !!」  俺はアイツの名前を叫んだ。  アイツの為ならコレくらいなら構わない。  俺は鉈を振り上げ、俺の左腕を切り落とした。  俺は痛みに絶叫した。  腕は血を吹き出しながら、【神】の上に落ちていった。    

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